ガラスの天井に挑む「私も」 「反トランプ」中間選挙に立つ女性たち セクハラ告発のうねり「新しい日」期す

西日本新聞

昨年あったジョージア州の下院補選で、民主党候補を支持した女性グループ 拡大

昨年あったジョージア州の下院補選で、民主党候補を支持した女性グループ

下院議員を目指し、スタッフと打ち合わせをするハシミさん。「医療や子育て政策だけを見ても、トランプ政権は女性を力づけることをしていない」と訴える=8日、メリーランド州 シャーロット市制初の黒人女性市長のライルスさん。トランプ氏が掲げる「米国第一主義」ではなく「今こそ『女性第一主義』を主張したい」と語る=10日、ノースカロライナ州

 トランプ米大統領に対する女性の怒りが収まらない。就任から1年。男女格差解消などに関する政策に乏しく、そこにハリウッド映画界を震源にセクハラが社会問題化したことが相まって、自身も疑惑が指摘されてきたトランプ氏に「ノー」を突きつけようと女性が蜂起する機運が高まっている。他の先進7カ国(G7)に比べ女性国会議員の割合が少ない中、11月の中間選挙では、かつてない大量の女性が立候補するとの予測も。反トランプの怒りは、米社会で女性の活躍や政界進出を阻んできた「ガラスの天井」をも打ち破るのか。 (ワシントン田中伸幸)

 「時が来た」-。

 首都ワシントンに近い東部メリーランド州に住む小児科医ナディア・ハシミさん(40)は昨年夏、地元ゲーサーズバーグを選挙区にする民主党下院議員が、今年11月の選挙に出馬しないことを知り、こう思った。

 両親はアフガニスタン移民。父は一文無しから、ニューヨークで飲食店を展開する経営者となり「アメリカンドリーム」を実現した。苦労人の父と、母国で大学を卒業し、教育熱心な母の後押しを受け、ハシミさんは医学の道を選んだ。

 ワシントンなどの病院勤務医として病気の子どもやその家族に寄り添い、経済格差や教育機会の不平等といった社会の厳しい現実を目の当たりにしてきた。「寒さに震える子どもが今、この州内にもいる」

 2009年からは仕事の合間にアフガン移民などが主人公の小説を書き、弱者保護の思いを訴えてきた。

 4人の子の母としても未来を案じる日々の中、政治に関しては全くの傍観者だった。だが、トランプ氏が16年11月の大統領選で勝利。「医療、教育など、どの政策を聞いても若い世代を勇気づけていない」。両親のような移民を否定する人種差別的な姿勢も看過できなかった。

 昨年1月の大統領就任式翌日、首都で行われた反トランプの「女性大行進」。ホワイトハウス周辺を埋め尽くした約50万人の怒れる女性たちの中にハシミさんもいた。「女性はもっと行動しないといけない」。そう考え始めた時、神経外科医の夫が政界進出を提案。昨年秋、挑戦を決意した。

 「トランプ氏の功績? 私のような女性のハートに火を付けたことかしら」とほほ笑むハシミさん。一線を退いた両親の助けを得ながら、友人から選挙活動のプロを紹介してもらったり、ネットを通じて支援を求めたりするなど、まずは民主党の下院選候補者に選ばれるための準備を進めている。

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 連邦議会の上下両院議員選が行われる中間選挙時には、多くの州知事選や地方議員選なども同時に実施される。今回は国政、地方を問わず大勢の女性が立候補に意欲を示している。

 民主党系の女性候補者を支援する団体「エミリーズ・リスト」には一昨年のトランプ氏の当選以降、昨年末までの1年余りで2万5千人から相談が寄せられた。16年秋にあった各種選挙を目指した相談者数の20倍以上に達するという。

 世界の国会議員が参加する列国議会同盟(本部ジュネーブ)によると、米国連邦議会における女性議員の割合(16年)は20%前後で、世界全体で100位台、G7中ではワースト2位。しかし、過去3回の下院選では150~180人で推移していた女性の立候補予定者が、今秋の選挙では350人を超すとの調査結果もあり、女性進出の拡大に注目が集まっている。

 「反トランプ候補」を支える女性の活動も広がる。保守地盤の南部ジョージア州での昨年6月の下院補選では、政治活動に縁遠かった女性たちが民主党候補の支援団体を設立。共和党候補に肉薄した。南部アラバマ州で昨年末、民主党候補が四半世紀ぶりに共和党候補を破った上院補選も女性票が勝因だった。

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 セクハラを告発する「#MeToo」(「私も」の意味)運動を含め女性が立ち上がる現状に、南部ノースカロライナ州の中心都市シャーロット市のバイ・ライルス市長(66)は胸を張る。「(黒人差別撤廃の公民権運動があった)1960年代のようだ」

 民主党市議会議員だったライルスさんは昨年11月、市長選に初当選。同市制初の黒人女性市長に就いた。「女性は職業の機会も収入も少ない。そんな現状に不満を持つ女性のためにも頑張りたい」と語るライルスさんを多くの女性が支えた。

 保守色が強い同州で市政を担う立場上、共和党との融和や連携を重視し、トランプ氏に対する批判は選挙戦中も今も口にしない。しかし、トランプ政権への審判と位置付けられる中間選挙については「楽しみにしている」と、女性立候補者たちへの期待を隠さない。

 一方、ライルスさんの成功は、リベラルな有権者が多い都市部だから実現できたとの見方もある。実際、大統領選で同州を制したのは女性初の米大統領を目指した民主党のクリントン元国務長官ではなくトランプ氏。共和党が強い他州の地方でも、保守派の男性候補を熱心に支持する女性が少なくない。

 「(女性にとって)新しい日が間もなく明ける」。先日行われた映画賞「ゴールデン・グローブ賞」の発表・授賞式。セクハラ問題に抗議し、こう訴えた人気タレント、オプラ・ウィンフリーさんに対し、反トランプ感情が渦巻く米国内では次期大統領候補への待望論も高まる。

 ただ、「変化は少しずつしか得られない」。20年の大統領選の見通しについて、ライルスさんは慎重な表情を見せた。

 それでも、こう信じて疑わない。「秋の中間選挙では、きっと良い結果が待っているわ」

 ●医療、子育て政策 根強い不満

 米国の各種世論調査によると、トランプ氏の支持率は男性より女性が低い傾向にある。実際、取材でも「彼は私の大統領ではない」といった痛烈な批判は女性から上がることが多い。背景には、トランプ氏自身がセクハラ疑惑を抱え「女性の敵」と見られているだけでなく、医療保険制度改革(オバマケア)見直しなど生活に身近な政策が実現できておらず、移民政策などで強硬な政治姿勢を示し続けることへの不満がある。

 南部バージニア州で3人の子育て中の主婦ヘイゲンさん(37)は米国の育児環境の厳しさを訴える。米国人とブラジル人を両親に持つが、母の母国ブラジルでは当たり前という、地域で子育てを助け合う環境が乏しく、保育施設の料金は高い。週末は元軍人の夫(47)に頼れるとはいえ「支援が少ない」と嘆く。

 トランプ氏は経済政策で成果を出し、地方にも目を向けていると評価する夫の意見に耳を傾けつつ「欧州並みとは言わないけれど税金をもっと育児や医療に使ってほしい」と願う。だが、社会保障政策に熱心とはとても思えないという。

 米国の研究機関が昨年実施した家庭調査では、前回大統領選で民主党クリントン氏を支持した家庭の4分の3が、子育て費用など暮らしに関わる経済問題に不満を表明。一方、共和党トランプ氏支持の家庭も4割が深刻だと回答した。「貧困や薬物中毒問題にもっと取り組んでほしい」(南部ウェストバージニア州の白人女性)といった暮らしへの要望は、トランプ氏支持層からも聞かれる。

 ただ、「女性に関係の深い社会保障や職業の機会均等などの政策に、トランプ政権はほとんど取り組めていない」と厳しく批判する、中西部ミネソタ州在住で60代の日系人カールソンさんのような民主党支持層や、無党派層の有権者に比べれば、その声は小さい。


=2018/01/22付 西日本新聞朝刊=

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