詳細なデータと生の声でわかる書店をめぐる状況と働く人たちのリアル

西日本新聞

 2年にわたって書店を巡り歩いた記録である。というと、苦境にあえぐ業界にあって奮闘している店主らの姿を活写した内容だと思うだろう。ところが、意欲的な試みでメディアに取り上げられていた書店すら閉店を余儀なくされるというショッキングな話が冒頭から出てくる。そうした消えゆく「街の本屋」がいくつも紹介される。

 全国の書店数はピーク時からほぼ半減した。それらすべてに店主や関係者の物語があるわけだ。
「進むも地獄、退くも地獄です」
という廃業の実態が丁寧な取材をもとにつづられていく。

 素人考えだと、立地さえ良ければ儲かるだろうと思うが、そういうものではないらしい。駅ナカ書店のような好立地でも、繁盛している店には他人にはわからぬ努力がある。「平台は本の高さが大事」であり、「ディスプレイ次第で、その本の本来の力以上に売ることができ」るのだそうだ。

 「その店長は一日中、棚にさわっていた。(中略)店が終わる時間になって、ようやく満足のいく棚ができる毎日だったという。『誰かにほめてもらえるわけでもなく、賽の河原の石を積むような作業。楽をすると販売数が減ってしまうので、必死です』と話していた」

 この駅ナカ書店は1日に100万円近い売り上げがあり、坪単価は全書店平均の10倍にもなった。にもかかわらず、閉店に至った経緯が記されている。

 その他の書店の取材も、数字の裏づけがあるのでイメージがつかみやすい。たとえば、行政が書店業に進出した「八戸ブックセンター」の例。1日あたりの売り上げ目標6万円に対し、年間の運営費は6000万円なので、差額の約4000万を市が補填することになる。これだけだと、税金を払っている住民はそれで納得するのかと疑問に感じるが、「公共でしかできない投資」になっているという。その理由や民業圧迫との関係も説明を聞けば、なるほどと腑に落ちる。

 こうした生の声とデータによって現場を伝える記述は、東日本大震災や原発事故、熊本地震で被害を受けた書店をレポートした第5章でピークに達する。一家全員が津波で亡くなったり、やむなく閉店したりする書店がある一方、書店業を継続しようと奮闘する人たちや新しく始めようとする人もいる。それがどういうものかは自分で手にとって読んで欲しい。書店という窓を通して、この国のさまざまな問題や現実に生活している人々の姿が浮かび上がってくる。


出版社:潮出版社
書名:「本を売る」という仕事
著者名 長岡義幸
定価(税込):1,728円
税別価格:1,600円
リンク先:http://www.usio.co.jp/html/books/shosai.php?book_cd=4188

 西日本新聞 読書案内編集部

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