「逃げ恥」および「逃げ得」考

 「逃げることで楽になるならそれもいい。でも一度逃げたら、永遠に逃げ続けないといけなくなる。逃げ続けるストレス、これも結構きつい」

 新聞記者になりたての頃、職場の先輩にこう言われた。もちろんケースにもよるが、逃げるより正面から立ち向かう方が精神的に楽-という意味だろう。それから30余年、この言葉が真実であることはしばしば経験した。

 最近、やたらと逃げる人や逃げ続けている人が目立つ。

 晴れ着のレンタル・販売会社「はれのひ」の社長が、成人式の着物を用意できずに、約半月も雲隠れし、やっと記者会見に姿を現した。

 意外だったのはその風貌が全くやつれていなかったことだ。新成人に晴れ着を届ける自分の職責と、ぎりぎりまで格闘したのだろうか。博多弁なら「必死豆炭でバタ狂ったとや?」と問いたい。式当日に新成人に晴れ着が届けられないなら、せめて式の前には事実を報告し、逃げずに謝罪すべきではなかったか。

 そして、もう一人逃げ続けている人がいる。国税庁長官の佐川宣寿氏だ。学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、財務省理財局長だった当時、国会答弁で交渉記録について「全て廃棄した」と繰り返した。ところが、交渉に関連する内部文書の存在が次々と明らかになっている。

 佐川氏は昨夏、国税庁長官に昇進したが、慣例の就任会見を行わず、その後も記者会見や国会答弁は一切行っていない。逃げずに説明責任を果たすべきではないか。

 一昨年『逃げるは恥だが役に立つ』というテレビドラマが人気を集めた。「逃げるが勝ち」の意味のほか、「己の得意分野で勝負しろ」という意味もあるそうだ。佐川氏の現ポストは安倍晋三首相も「適材適所」と強調しており、氏の得意分野なのだろう。

 今月は確定申告も始まる。ぜひとも適材適所の国税庁トップとして納税者の理解と信頼の得られる税務行政の在り方を語っていただきたい。

 「逃げ恥」が「逃げ得」になる社会では困る。

=2018/02/04付 西日本新聞朝刊=

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