村上春樹さんが「作家が編集者を泣かせる三大要素」を挙げていた…

 村上春樹さんが「作家が編集者を泣かせる三大要素」を挙げていた。(1)締め切りに遅れる(2)悪筆(3)生意気。村上さんは「(3)はかなり心覚えがあるが、(1)と(2)については潔白」だとか

▼筆者は(2)が悩みの種だった。学生時代に「読めない」と笑われ、活字のような字を書こうと決めた。新聞の原稿も昔は手書き。「悪筆は間違いのもと」と新米時代に教えられ、「字は読みやすさが第一」と確信した

▼世の中に達筆、能筆と称される書はあまたあれど、浅学にしてまず読めない。意味が分からない…と敬遠しがちだったが、九州国立博物館の島谷弘幸館長の指摘に目からうろこがぽろり

▼「書を楽しむためには、まず読むという行為をいったん忘れること」。そうすれば「純粋に筆による線の美しさや造形美を感じることができる」。絵画のように鑑賞すれば、今まで見えなかった書の価値が見えてくるというのだ

▼では、美を極めた書とは。「三筆」とたたえられた空海、嵯峨(さが)天皇、橘逸勢(はやなり)の名が浮かぶ。その空海らが手本としたのが4世紀中国の書家、王羲之(ぎし)。楷書、行書、草書の各書体を完成させ、芸術の域に高めた「書聖」である

▼直筆は失われたが、歴代の書家が精緻に写したものが残されている。同博物館で開催中の「王羲之と日本の書」展で見られる。圧倒的な文字の力強さ、優美さに「字は読みやすさが第一」と言っていた生意気が恥ずかしくなる。

=2018/02/28付 西日本新聞朝刊=

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