木立の光に未来見詰め 林業家の緒方万貴さん(37) 山を守り、育て、つなぐ

西日本新聞

若手林業経営者らでつくるグループ「日田林家」で商品化したTシャツ 拡大

若手林業経営者らでつくるグループ「日田林家」で商品化したTシャツ

由布市の山でいとおしそうに木をなでる緒方万貴さん。「この風景を未来につなげていきたい」と語る 現場に並ぶ重機。木を切ったり、つかんで移動させたり、運び出したり。さまざまな場面で活躍する マルマタ林業が管理する由布市のスギ林に光が差し込み、風が吹き抜ける

 鳥の声しか聞こえない。2月下旬、由布市湯布院町の山林で日田市隈のマルマタ林業社員緒方万貴さん(37)は、差し込む光をまぶしそうに見上げた。真っすぐに伸びたスギをそっとなでると、冷たい風がすり抜ける。「この光、この風。本当にすがすがしい」

 「マルマタ」の屋号で古くからしょうゆ醸造や林業などを手掛ける合原家に生まれた。福岡県内の大学で土木を学び、卒業後も研究を続けたが「男社会の土木の世界で生きていけるかな」との不安もあった。  ある日、マルマタ社長で母の合原真知子さん(69)から「林業やってみる?」と誘われた。よく仕事の話をして現場にも連れて行ってくれた母だが、「家業を継いで」と言われたことは一度もなかった。そんな母の言葉に驚くとともに、親しんだ山の風景がよみがえった。環境問題への興味も後押しし、2004年11月に入社した。

 入社後1年半ほどは「境(さかい)回り」という作業に従事した。ベテラン社員に付いて図面を見ながら所有する山林の境界を確認し、木には墨で屋号を記す。急傾斜の山道を歩くきつい作業だが「創業家としての自覚を持つための大事な仕事」だ。

 会社は5年間の経営計画に基づき現地で調査・選木して伐採すると同時に間伐や植林も行う。緒方さんは現在、企画総務課で事務の傍ら、合原家や同社が九州各県で所有・管理する約1400ヘクタールのスギを中心とした山林の調査・選木、植林などの仕事も担う。

 調査・選木は木の状態や大きさ、配置などを調べ、切る木を選び白いテープを巻く。伐採はその目印に従い行われる。適期に伐採を怠ると成長や年輪の幅にばらつきが出て、良質な角材にならないこともあるという。気の抜けない作業だ。

 伐採計画は市場動向や木の生育を見ながら毎年数回見直す。現在は直径24~28センチ(樹齢40年ほど)のスギの価格が高い。それ以上だと値が下がるが、100年を超える「銘木」と呼ばれる木は高値で取引されることもある。だからといって高値の木をどんどん切るだけでは30年先、50年先の経営が立ちゆかない。

 「どの木をどれだけ切り、残し、また植えるか。収支と山林全体のバランスが大事。100歳の木の横で幼木が息づく。そんなバランスの取れた山をつくりたい。林業は次世代を見据え、つないでいく仕事です」

 音を上げそうになることもあったが、木立に日が差し込む光景を「美しい」と感じるようになった。現場で「次は何が必要か」と考えられるようにもなった。木とともに「少しだけ成長したかな」と感じる。

 年1回、市民が森に親しむイベントを開く。若手の同業者らと町おこしグループ「日田林家(りんか)」も立ち上げ、Tシャツやトーチ、コースターなどを製作・販売し、林業のPRにも力を入れている。価格低迷など現状は厳しいが、林業に生きる一人として「未来に、この風景をつなげていく責任がある」と思っている。

 入社翌年に結婚した夫の淳さん(37)も1年の修業を経て入社。将来は夫婦で会社を支えていく。「山は手を入れれば恩返ししてくれる。でも管理するのは人。人を大事にしなければだめよ」。母の教えを肝に銘じ、きょうも木々の間からのぞく青空を見上げる。

◆メモ マルマタ林業は、マルマタ醤油(1858年創業)を経営する合原家が、明治末期に山林の経営に乗り出したことが起源。1965年に株式会社として設立された。現在は日田市や豊後大野市、熊本県小国町などで山林約1100ヘクタールを所有、管理委託を受ける山林を含めると約1400ヘクタールになる。社員は合原真知子社長を含め7人。日田市隈2丁目。

=2018/03/01付 西日本新聞朝刊=

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