裁量制提出断念 「1強」のほころび見えた

西日本新聞

 盤石と見えた「1強政治」の慢心が招いたほころびではないか。

 安倍晋三首相はきのうの参院予算委員会で、今国会に提出する予定の働き方改革関連法案から裁量労働制の適用拡大に関する部分を削除すると表明した。

 裁量労働制を巡る厚生労働省の不適切な調査データ処理が次々に発覚したためだ。当然である。

 安倍首相は今国会を「働き方改革国会」と位置付け、関連法案を看板政策に掲げていた。その骨格の一つが欠ける。政権に与えるダメージは決して小さくない。

 1日23時間以上も働いたと受け取れるなど異常データが多数明るみに出た後も、政権は「数」を頼りに、成長戦略の柱に据える裁量労働制を含む法案提出で強引に突破を図ろうとした。しかし野党の反発に加え、与党内にも対応への疑問が広がり、世論の理解を得るのは困難と判断したのだろう。

 首相が連続3選を目指す9月の自民党総裁選に向け、昨年の森友・加計(かけ)問題などによる支持率急落の再現を恐れたのかもしれない。

 裁量労働制は労使で決めた「みなし労働時間」分だけ賃金を払う制度だ。現在は19専門職と一部の企画業務型事務職に適用される。経済界には人件費削減や生産性向上への期待が大きい。政府は関連法案で企画、立案、調査を担う営業職などにも拡大しようとした。

 裁量労働制は、働き方の選択肢を広げる可能性がある一方、残業代なしで長時間労働を強いる懸念も拭えない。

 そもそも八つの労働法規の改正を一本化した関連法案には、残業時間の上限を罰則付きで明記する規制強化と、裁量労働制の適用拡大などの規制緩和が混在する。曖昧で安易な法案作成の手法に根本的な問題があったのではないか。

 裁量労働制部分の今国会提出断念で、政権は早期の火消しに動いたつもりかもしれない。しかし看板政策の見直しが今後の国会運営にどう響くかは予断を許さない。何のための働き方改革か。政府は関連法案を再点検すべきだ。国会にも徹底的な審議を求めたい。

=2018/03/02付 西日本新聞朝刊=

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