【提言委員座談会】 緊張解く鍵 どう探る

西日本新聞

姜尚中さん熊本県立劇場館長。1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長などを歴任。専攻は政治学、政治思想史。著書に「漱石のことば」など。 拡大

姜尚中さん熊本県立劇場館長。1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長などを歴任。専攻は政治学、政治思想史。著書に「漱石のことば」など。

関根千佳さんユーディット会長、同志社大客員教授。1957年、長崎県佐世保市生まれ。九州大法学部卒。81年、日本IBMに入社。ユニバーサルデザインの重要性を感じ、98年に(株)ユーディット設立。同社社長、同志社大教授など歴任。著書に「ユニバーサルデザインのちから」など。 徳増浩司さんラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長特別補佐。1952年、和歌山県生まれ。国際基督教大(ICU)卒、新聞記者を経てカーディフ教育大留学。帰国後、茗渓学園高ラグビー部を率いて全国優勝。95年から日本ラグビーフットボール協会勤務。アジアラグビー会長を2017年に退任し、現在は名誉会長。 平野啓一郎さん作家。1975年、愛知県蒲郡市生まれ。2歳から福岡県立東筑高卒業まで北九州市で暮らす。京都大在学中の99年にデビュー作「日蝕」で芥川賞。近刊は作品集「透明な迷宮」、長編小説「マチネの終わりに」。 松田美幸さん福岡県福津市副市長。1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、内閣府少子化克服戦略会議委員。 丸山泉さん医師、日本プライマリ・ケア連合学会理事長。1949年、福岡県久留米市生まれ。久留米大医学部卒の内科医。福岡県小郡市で医師会活動の後、NPO法人で地域の健康増進活動に取り組む。2012年6月から日本プライマリ・ケア連合学会理事長。父は医師で詩人の丸山豊。 宮本雄二さん宮本アジア研究所代表、元中国大使。1946年、福岡県太宰府市生まれ。修猷館高-京都大法学部卒業。69年に外務省入省。中国課長、アトランタ総領事、ミャンマー大使、沖縄担当大使などを歴任。2006年から10年まで中国大使。著書に「強硬外交を反省する中国」など。 藻谷浩介さん日本総合研究所調査部主席研究員。1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。 座談会で論議を交わす参加者 座談会に出席した(前列左から)関根千佳、平野啓一郎、松田美幸(後列左から)藻谷浩介、徳増浩司、宮本雄二、丸山泉、姜尚中の各氏

 米朝の激しい対立から緊張が続いてきた北朝鮮情勢。平昌五輪を契機に南北の融和ムードが一気に高まったが、状況は不安定なままだ。九州に暮らす私たちは、この状況をどう捉え、どう行動すべきなのか。足元に目を移せば、少子高齢化の荒波に洗われる中、2020年の五輪開催に向けて活気づく東京とどう向き合い、アジアに開かれた地域としての優位性をどう生かすのか。情報技術(IT)の進展で報道メディアの在り方そのものが問われている中、本紙は読者との双方向性を高める狙いで「あなたの特命取材班」の試みをスタートさせた。本紙の大型コラム「提論 明日へ」を執筆する提言委員の座談会を開き、2018年の展望と視座を語り合ってもらった。(敬称略、司会は西日本新聞社編集局長・傍示文昭。座談会は南北首脳会談合意前の2月22日に開催)

【北朝鮮問題】核放棄へ出口示す必要も 南北の対話歓迎すべきだ

 -平昌五輪を一つの契機に北朝鮮が対話路線にかじを切った。東アジア情勢はどう変わり、日本の立ち位置はどう変わるのか。

  戦争は避けなければならないというのが大前提だ。北朝鮮がなぜ米国と対等であるかのようなポーズをとれるのか。核を持っていることに尽きる。日韓関係が非常にまずくなり、北朝鮮問題において日本が果たせる役割が狭くなった。かつては米朝間のブローカーになり得たが、拉致問題が明らかになって以降、北朝鮮は韓国をブローカーとするようになり、日本は静観せざるを得ない立場になった。昨年10月、福岡県日朝友好協会によるローカルなレベルの訪問団が北朝鮮を訪れた。地方は地方で少し動いていい。福岡からそういう動きが出てきたのはいいことだと思う。

 宮本 中国は自国の利益を前面に出した外交政策にかじを切っているので、北朝鮮に圧力をかける。しかし北朝鮮が崩壊すると困るから、頃合いを見ながら圧力をかけてきた。米国では、国務省に北朝鮮のことをまともに考えている人がおらず、長期的な国益を考えた議論が出てこない。平和を実現しながら、北朝鮮の核をなくすことは複雑な方程式だが、解けないわけではない。核を放棄した場合に、北朝鮮が安心できる出口を示すべきだろう。

  どういう状況なら北朝鮮は核を放棄するのか、ぎりぎりの本音をつかめるかどうかが鍵だ。

 平野 出口を示して交渉すべきだという議論になるたびに「悪いのは北朝鮮だ」という世論が湧き上がる。それは分かりきっているが「あいつが悪い」と言い続けても仕方ない。段階的に緊張緩和を進め、最終的に核放棄というところまで進めていくしかない。南北が対話することは歓迎すべきなのに「北朝鮮にだまされるな」という論調が強まる。悪い冗談としか思えない。徴兵を体験すると戦争の抑止力になるという人がいるが、外国人とビジネスや文化交流をやる方が、はるかに「戦争を起こしちゃいけない」というマインドになる。いろんな国の人が混在し、何もかもがグローバル化している今、核兵器を持っていても簡単には撃てない。多様性を進めることで、核を撃てないようにすべきだ。

 藻谷 東アジアが急速に経済的に成長できたのは、半世紀以上も平和だったからだ。日本では中国や韓国の悪口を書いた本が売れているが、向こうでは日本旅行が大ブームになっている。2017年の1年間に、中国人は187人に1人が日本に来た計算で、米国人の220人に1人よりも多い。韓国人に至っては、7人に1人が来日した。日本は、中国、韓国、台湾にハイテク部品や高機能素材を売ることで、毎年8兆円以上の経常収支黒字を稼いでもいる。こうした繁栄も、ミサイル1発飛べば台無しだ。ことさらに戦争の危機をあおる人は、こうした現実が分かっていないように見える。

 丸山 ただ、北朝鮮の行状を見ると、やはり不安だ。世界的には日々戦争が行われている。戦争がない方が珍しいくらいだ。もちろん核戦争などあってはならないし、戦力とか有事という議論を「一発核が飛んだら全滅」という単純な話に終わらせてはいけない。日本だけが夢のような世界で暮らせるわけがなく、複雑な要素を整理しなくてはいけないが、日本や米国の議論が情緒的に進んでいて怖い。

 関根 平昌五輪女子アイスホッケーの南北合同チームは、試合が進むにつれて一体感が生まれてきた。あの様子を見て、ちょっと安心した。本来、同じ言葉を話す同じ民族。確かに北朝鮮の現政権は好きになれないが、国民一人一人のレベルでは、あの上層部の強圧的な体制が取り払われたならば、南北はもう一度融和できるんじゃないか。

 徳増 そもそも朝鮮半島の南北分離は、第2次大戦後の冷戦構造から生まれたもの。ロシア、中国が北朝鮮の暴挙を片手でしか止めようとしないのは、結果的に北朝鮮が米国をけん制することに利用してきた感がある。ロシアや中国も北朝鮮に働き掛け、アジアの和平に乗り出すことが、彼らの国際社会でのプレゼンスを大きく高めることになるのではないか。

 松田 福岡県福津市の副市長になって、住民の安全を守るという立場になった。全国でミサイル飛来を想定した訓練をやっているのを見て、本当に私たちがやるべきことは何なのかと考えさせられた。今こそ子どもたちと一緒に、違いをどう理解するかを学ぶ時ではないか。

 宮本 アジアに近い九州の特徴として発展させてもらいたいのは、多様性を認める、異なる文化を認めるという考えだ。日本人が北朝鮮や中国の立場について代弁すると批判されがちな昨今だが、九州の人たちには、バランスの取れた見方をできるようになってもらいたい。

■未来築く道 どう描く

【九州の将来像】東京と異なるアイデアを

 -少子高齢社会の中で、東アジアにおける九州、日本における九州がどう将来性を見いだしていくか。

 藻谷 九州の特色は、全国の他地域はもちろん東アジアの中で比べても、出生率が高いことだ。子どもを大事にする気風があり、合計特殊出生率は1・6を超える。北海道は1・3、東京は1・2、韓国や台湾は1・0前後しかない。半面、九州人の消費行動は、年々東京化しているように思う。その象徴が、どんどん東京に似てきている福岡の街だろう。

 徳増 タイ政府観光庁が福岡事務所を再開するという。アジアに近い九州と各国が、いろんな交流を深めていくことは面白い話だ。もう一つ、福岡のめんたいこ会社が廃校を工場にして業績を上げている。そこに女子のソフトボールチームを作って、社員の募集にも成功したという。人口が減っている地方では、アイデア次第でいろんなものが生まれてくる。

 丸山 福岡が発展するのはいいが、福岡に人口、特に若年労働者が集中していくのは問題だ。例えば、九州には定員の7割しか受け入れられない老人ホームがある。スタッフが集まらないからだ。福岡という都市に対して、何か言うのではなく、非都市の問題を論じるべきだろう。都市の健全性を保つには、非都市の健全性を担保しないと、将来的に都市は干からびていく。

  リニア中央新幹線の建設現場を見た。完成すれば、東京圏が関西圏まで延びる。かつての太平洋ベルト地帯に、人口とGDPと情報と金が集中していく。九州がリニア経済圏に近くなる戦略を取ることがいいのか。一方で、日本列島と東アジアをつなぐちょうつがいの中にいる九州、特に福岡は、東アジアとの関係を深めて、独自のよって立つところを求めていくことがいいのか。それが分岐点になるんじゃないか。

 平野 東京は近代的な、中央集権的な発想が強すぎる。インターネットの登場以降、世界は分散化を進め、参入障壁をできるだけ低くしている。いろんな人が参加できるからローコストになり、アイデアも集まり、リスクヘッジ(危機回避)できる。一方で東京は原発も、リニアも、国がどーんと資本を投入して、参入障壁がものすごく高い。技術の進展にスピード感がないし、価格も下がらない。だから九州は、首都を中心にした経済発展とは違う、賢いやり方を追求してほしい。

 松田 これからは、モノやサービスを共有し合う「シェアリングエコノミー」で、普通の人もサービスの提供者になれる。今まで私たちがサービスを選択する時に、大企業とか、安心マークで選んでいた。安全とか、おいしいとか、クオリティーとか、自分で判断できるようになれば、新しい働き方も出てくる。それを支えるのはテクノロジーなので、そういう分野の人材を徹底して育てれ
ば、賢いやり方は実現できる。

 丸山 仕掛けるべきことは、福岡都市圏と地方との関連性。例えば100床の病院があれば、地方自治体では、これを絶対に維持しようというベクトルが働き、再構築しようという力がない。そういう力をバックアップする福岡市であることが大事だ。

 宮本 過疎の村の人たちが自分たちだけで村おこしを考えても限界がある。そういう人たちが相談できる場所やネットワークが必要。日本人だけに限らなくていい。村から英語で「こんなことをするが、良い知恵はないか」と発信する。そうするとフィンランドの村から「だったら、うちは10年前にこんなことをやった」という話が届くこともあるだろう。

 関根 リビングラボという取り組みが欧州で始まって、いま世界で増えている。市民の側が自分の経験を出しながら、自分たちの課題を発見し、それを解決するという動きだ。福岡でも頑張っている。そこから何か新しいものが出てくるかもしれない。

 徳増 インターナショナルスクールの子どもと日本の子どもが、一緒にプレーできるラグビースクールを都内に作った。フェイスブックを使って英語と日本語で発信したところ、ポルトガルの人から「近く日本に出張する。1日参加できないか」と反応があった。オーストラリアの中学校からは「修学旅行で日本に行く。一緒にやらせてくれないか」という依頼もあった。地域的なコミュニティーもあるが、テーマ的なコミュニティーもある。いろんな外国人に慣れ、交流を深めていくことも、人口減解消の鍵になると考える。

【新聞の役割】ファクトチェックが重要に

 -西日本新聞はSNSなどを活用した「あなたの特命取材班」という試みに取り組んでいる。新聞の将来像に意見を。

 藻谷 「東京への人口集中が加速」という記事を見たが、実際には東京都でも、増えているのは65歳以上の高齢者だけだ。理由は、東京の出生率が低すぎて、過去に流れ込んだ若者が同数の子どもを残せなかったこと。そこまで一段掘り下げた報道が望まれる。子どもを育てやすい九州に若者を誘導する、という使命感を持ってほしい。

 徳増 ウェブサイトの記事を見慣れたせいか、いろいろな大きさや種類の文字が躍っている紙面は、読みにくく感じる時がある。ストーリーとファクトを分けて、ファクト部分は同じ大きさの見出しにするなど、均一な紙面構成でもいいのではないか。若手が執筆しているという「あなたの特命取材班」は大いに評価できる。新聞にはやはりストーリーが必要だ。

 関根 読者の投稿から取材を始め、深掘りしていく手法はいい。新聞社が普段気づかない視点を、読者が提供してくれる可能性も大きい。

 丸山 新聞社が知らせたいことと、読者が知りたいことのギャップを埋めようという企画のようだが、それはポピュリズムに陥る危うさもはらんでいると思う。

 平野 知りたいことも大事だが、何かをやりたいと思っている人に、ヒントになるような企画も大事だ。出版業界は、売り上げがピーク時の半分くらいになって大変な状況だ。だけどアイデアに乏しい。みんな成功事例を求めている。成功事例は有益な情報になる。

 松田 地方議会や地方自治体の改革の状況をもっと明らかにしてほしい。「公務員の仕事は非効率」といったステレオタイプの前提を捨てると同時に、頑張っているヒーローだけにスポットを当てるだけではなく、住民がどう関われば、よりよくなるのかというヒントを見いだせて、行動を促す報道を期待したい。

  新聞とそれ以外のメディアを比べると、韓国では新聞に対する信頼度が低く、インターネットが高い。日本は依然として新聞が高い。これから先はファクトチェックをしっかりやってほしい。例えば、裁量労働制を巡るデータは、ミスなのか、改ざんなのか、意図的なのか、読者が知りたい部分だ。ファクトチェックをすると「この新聞は信用できる」となる。

 丸山 もう一つ謝ることが大切。間違ったら率直に謝る。そうするとファクトの信頼性が高まる。

 ▼「提論 明日へ」 混迷の時代に私たちが抱える問題を読み解き、今後の展望について九州ゆかりの著名人・有識者に執筆してもらう大型コラム。日曜日朝刊に掲載。提言委員は8人。コラムは2011年3月にスタートし、座談会は今回で7回目。

=2018/03/09付 西日本新聞朝刊=