介護疲れで妻をあやめた男性 怒鳴られ衝動的に…仏前で毎日、自問自答 老老介護は54・7%にも

西日本新聞

罪を犯す高齢者たち<4>

 1人には広すぎる家で、70代男性は取材に応じた。棚には車いすに乗る妻の写真が飾られていた。「こうしていつも横に座っていた。笑顔がすてきでね」。その妻を介護疲れからあやめてしまった。

 20年ほど前の事故で下半身不随となり、介護の日々が始まった。子宝に恵まれなかった分、もともと夫婦仲は良かった。たまにトイレを失敗したりしてつらいと思う日もあったが、2人で穏やかに過ごしてきた。

 歯車が狂いだしたのは還暦を過ぎたあたりだった。自身の体力が衰え、抱きかかえるのが難しくなってきた。在宅介護に限界を感じ老人ホームへ。すると妻の様子が一変した。身に覚えのない浮気を責めたてる、職員に「へたくそ」と怒鳴る…。うつ病だった。トラブルを起こしては施設を転々とするようになった。

 「僕に介護してほしかったんだ」とおもんぱかり、2人で生きる覚悟を決めて自宅に戻った。しかし、暴言はやまなかった。着替えを介助していて「違う」と怒鳴られ、衝動的に首を絞めた。

 裁判では精神的に追い詰められていたとして執行猶予判決となり、再び自宅に戻った。仏前で毎日、自問自答する。「どうすれば良かったのか。もっと人に頼るべきだったのか」。寄り添ってきた伴侶の心を見失ったことが何よりつらい。

   ■    □

 54・7%が老老介護―。要介護の65歳以上がいる世帯のうち、世話する側も65歳以上という割合だ(2016年、厚生労働省調べ)。この年だけで「介護・看病疲れ」を理由とする殺人が全世代で43件起き、高齢者も加害者になっている。

 14年には九州北部でも悲劇が起きた。「寝ている姿がとても安らかで、このまま天国へ送ってあげたいと思いました」。90歳に近かった夫は裁判で、妻の首に手を掛けた理由をそう語った。

 今年2月、事件現場のマンションを訪ねた。ひっそりとして人けはなかった。同じ階の高齢の女性が応対してくれた。「長年、近所に住んでいても、夫婦や家族の悩みを打ち明けるのは恥と思ってしまう。年を重ねるとなおさらね」。裁判では、夫婦が公的な福祉サービスを利用していなかったことが明らかにされた。

 「行政がもっと踏み込めれば…。もどかしい」。10年以上前に同様の事件が起きた九州の地方都市の職員は目を伏せた。発生後、地域包括支援センターを開設し、常駐のケアマネジャーや保健師などスタッフを倍増してきた。それでも事件は繰り返される。「高齢化の速さに追いつけない」。いたちごっこが続く間、悲劇はやまない。

 昨年4月には、熊本地震で被災した70代夫婦が転居先で孤立し、夫が妻を絞殺した。福岡県の海岸では夫婦の遺体が抱き合うような姿で見つかった。捜査員によると「互いの体が離れないよう、ひもで足がきつく結ばれていた」という。

=2018/03/25 西日本新聞=

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