刑務所で50年過ごした男からの手紙 窃盗繰り返し15回目の逮捕 高齢者の再犯、手探り続く支援

西日本新聞

罪を犯す高齢者たち<5>

 いよいよ取り調べが始まるとき、男(75)は名刺大のメモ紙を刑事に渡した。ラーメン店でビール2本、美容院で現金1250円…。この1カ月に盗んだ金品や日時を記録していた。拘置所から記者に送った手紙に、理由があった。〈手間が省けるので〉―。

 バールを持ち歩いたとして、特殊開錠用具所持禁止法違反の容疑で現行犯逮捕された。若いころは遊ぶ金欲しさ、老いてからは腹を満たすために窃盗を繰り返してきた。逮捕は15回目で、14回目に出所したのが1カ月前だった。

 75年の人生で50年を刑務所で過ごしてきた。警察や検察の取り調べの厳しさは身に染みている。裁判の手続きも煩わしい。そうした「手間」を省き、できるだけスムーズに刑務所へ行けるよう、常に準備していたのが「余罪メモ」だった。

 だからといって、逮捕を望んでいるわけではないという。拘置所で面会すると「自分は窃盗癖という病気じゃないか」と漏らした。その後に寄せた手紙には、舎房が冷たく、ペンを持つ手がかじかんだため〈字がキタナクなり申しわけ御座居ません〉と書いていた。

 ただ、塀の外も冷たい。頼りたい親族とは疎遠、高齢だと仕事はない…。〈寒さに負けず一人部屋で耐えております〉。2通目の手紙にはそうつづられていた。

   ■    □

 刑務所にいる高齢者の7割が再犯―。法務省の犯罪白書によると、入所者全体では減少が続く中、65歳以上は2016年で2498人と増加傾向にあり、出所から2年以内に戻る再犯率が高いのも特徴という。

 「大声で話し掛けてもうなずくだけ。落ち着いて座っていられない人もいる。そのまま社会に出しても、きっと罪を繰り返す」。社会福祉法人「南高愛隣会」(長崎県雲仙市)の酒井龍彦常務理事は、元受刑者の支援を通して実感する。

 法人は、刑期を終えた高齢者や障害者を一時的に受け入れる県地域生活定着支援センターを運営する。生活保護や公的介護サービスが受けられるよう行政につなぐなど、1人で暮らせるまでサポートする施設だ。09年の開設以来、500人以上を受け入れる中で、高齢者にも軽度の障害や認知症の人が目立つという。

 地域生活定着支援センターは09年、国の補助事業として設置が始まった。47都道府県に整備されたのは11年度末で、まだまだ手探りが続く。酒井さんは「社会の支援の網の目からこぼれた人が罪を犯す。私たちが懸け橋にならなければ」と自分に言い聞かせる。

 メモ紙の男は、地裁で懲役4年6月の実刑判決を言い渡された。聞き終わると顔を上げ「社会復帰したら窃盗は絶対にやめます」と宣言した。記者宛ての手紙にも、そう書かれていた。

 次に灰色の部屋を出るのは80歳。街は何色に見えるだろうか。=おわり

=2018/03/26 西日本新聞=

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