「平和教育」に教員向け手引書 若年化、被爆者減少で長崎市教委が初導入 子どもの主体性促す

西日本新聞

 長崎市教育委員会は新年度から、市内すべての小中学校で取り組む平和教育を見直す。被爆体験の「継承」と平和の「発信」という従来の柱に、新たに「創造」を加える。被爆者や戦争を知る世代が減っていく中、次代を担う児童生徒たちが平和とは何か、平和をどう実現するかを主体的に考え、行動できるよう促すのが狙いだ。

 指導する教員も若い世代が増えていくことから、教員向けの手引書を初めて作成し、2003年作成の小中学生向け副読本「平和ナガサキ」も初めて大幅に改訂する。手引書は新年度スタート後に、副読本は5月末にそれぞれ配布する予定。

 従来の教育は被爆体験の継承に特化するあまり、児童生徒には「一方通行になっていた」(教育関係者)との指摘もある。同世代の若者たちとの討議では、十分に自分たちの考えを伝えられない課題も浮かんでいた。新たな教育では児童生徒同士や被爆者との「対話」を重視する。市教委は「自分の考えをしっかりと主張できる子どもたちを育てたい。培ってきた平和教育を基盤に、さらに発展させたい」としている。

 ◆助言者が講演◆

 長崎市教委は新年度からの平和教育見直しについて、教員向け説明会を2月下旬に開催。手引書作成などに助言した長崎原爆資料館の中村明俊館長と長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授が、平和の創造には何が必要か、という観点でそれぞれ講演した。

 ■中村明俊・長崎原爆資料館館長 的確な理論持とう

 世間では戦争の影が薄らいでいる。漫画「ゲゲゲの鬼太郎」には背景に作者の戦争体験を感じたが、「妖怪ウォッチ」にその要素はない。人間はせいぜい100年しか生きられず、戦争を繰り返さないためには体験を継承していくことが何より大切だ。

 「原爆の風や揺れ、光を体感できるような機械を導入しては」との提案が資料館に寄せられる。被爆の追体験はできないからこそ生まれる発想だ。こうした体感装置も一つの考えで、ほかにも紙芝居や映像、文学、講話を通じて継承することができる。

 一つ気をつけたい点がある。今の世界の課題は、感情だけでは解決しない。日本は銃が出回っているわけではなく、警察も機能しているので分かりにくいかもしれないが、世界では銃による犯罪、紛争が頻発している。まだまだ無秩序で、力が社会を制しているのが実情だ。

 今仮に、米トランプ大統領が資料館を訪れれば何と言うだろうか。「核の威力を確認できた」とでも言いかねない。こうした人たちにどう伝えるのか、そこに対抗するには的確な理論を持つことだ。

 例えば原爆の投下は日本が米国ハワイの真珠湾を奇襲したことの報復だ、との指摘がある。これには反論が必要だ。日本は軍事基地を破壊したのに対し、米側は無差別に市民を巻き込み、都市や人々の暮らしを壊した。これは明らかな過剰報復だ。こうした理論を積み重ねることで、秩序を形作っていくことが重要だ。

 ただ繰り返すが、世の中に核兵器がはびこる冷徹な現状が厳然としてある。そこをどう乗り越えていくのか。これは私自身、昨年亡くなった土山秀夫さん(元長崎大学長)から何度も指摘された課題でもある。 (談)

 ■中村桂子・長崎大核兵器廃絶研究センター准教授 まず現状を知ろう

 学生アンケートの結果に驚いたことがある。9割以上が「核兵器は無くならない」と悲観的に見ていた。でも中身をよく見ると、「現状が分からない」「自分とは関係のない世界のことだ」との回答もあった。

 さらに学生たちと話すと核兵器が無くなればいいな、とは感じていても、どうすれば実現するのかビジョンや方法論を描けていないことや、自分にも関係する問題としてとらえられていないことも分かってきた。

 私は希望を見いだした。現状をきちんと理解した上で核は無くならない、との結論を出したのではなく、「何となく無理だよね」と、漠然と悲観的になっている実態が浮かんだからだ。

 確かに中村明俊さん(長崎原爆資料館館長)が言うように、世界は互いに威嚇し、力を見せ合うことが秩序とされた歴史がある。その一つが核兵器だ。

 一方、そこにあらがおうとする人たちもいる。地球上に点在するアフリカや南太平洋など、地域ごとに見れば核のないエリアが存在する「非核地帯」という概念は、そうした人たちが編み出した知恵の結晶だろう。

 現在進行中の核兵器禁止条約の批准、発効に向けた動きも注目してほしい。これは、核兵器が使用されれば人体や環境に多大な影響があることを各国に問い直した壮大な取り組みで、核が決して大国の証しではなく、役立ちもせず、むしろ持つことは恥である、と、価値観の大転換を迫った。ノーベル平和賞を受賞した非政府組織ICANは地球規模の気候変動が起きる可能性があることを理論やデータで立証した。被爆者の訴えがこれを後押しした。

 小中学校の教育で大切なのは被爆の実相を学び、人の顔や痛みを忘れないようにすること。同時に平和の実現に何が必要なのか考え、模索することだ。 (談)

 ■「対話」を重視、新段階に

 青森公立大・横手一彦教授(日本近代文学)の話 平和教育に欠かせない戦争体験の講話者として、被爆者に頼る時代が長く続いた。講話は貴重な活動で、その役割が大きかったのは言うまでもない。ただ、従来のやり方が児童生徒にとっては一方通行になっていた面も否めず、「対話」や「双方向性」を重視することで、主体性を築こうとする市教委の姿勢は評価できる。被爆者の高齢化で「被爆者のいない時代」が迫ろうとする重要な局面で、被爆地の平和教育は新しい段階に入ろうとしている。今後も常に見つめ直し、改善することが必要だ。

=2018/03/31付 西日本新聞朝刊=

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