気管支や内臓を患い

西日本新聞

 気管支や内臓を患い、入院3カ月目になる父にとって、一番の楽しみはたばこなのだろう。不自由なことが多く、いらいらが募る入院生活の中で、たばこをくわえている時が唯一落ち着くそうだ。病院の駐車場の片隅で紫煙をくゆらす間、旧制高校や大学時代、家族旅行など思い出話を楽しそうに語り続ける。

 ただ、最近のことはとんと覚えていない。朝食の献立はもちろん、日付さえ心もとない。90歳になる父には覚えておくべき大事なことが多すぎて、最近のさまつな出来事は二の次なのだろう。

 以前、赤瀬川原平さんの「老人力」を読んだ。年齢を重ねれば忘れることが多くなり、力みが消えて自由になるという内容だった。「俺、今日は何本吸ったかな」と言いながら、もう1本くれとばかりに手を伸ばしてくる父。何度も同じ話題を繰り返しうんざりすることもあるが、肩の力の抜けた父もいいなと思ってもいる。 (久保田敦)

=2018/04/02付 西日本新聞朝刊=

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