学校の安全「銃には銃」 オハイオの公立中学ルポ 教員即応「制圧1分で」 乱射の抜本対策に遠く

西日本新聞

シドニー中学の生徒の下校を見守る武装警備員 拡大

シドニー中学の生徒の下校を見守る武装警備員

壁に据え付けてある指紋認証機能付き金庫から銃を取り出すシュー教育長。襲撃があれば、ドアに掛けた防弾チョッキを身に付け、現場に駆け付ける オハイオ州内の室内射撃場で射撃するイートンさん。この日はいなかったが「私たちが訓練した先生たちも、ここでよく練習している」という

 「銃の国」米国で、学校の銃犯罪対策への関心がかつてなく高まっている。2月に南部フロリダ州の高校で発生した銃乱射事件後、繰り返される学校での悲劇に高校生の怒りが爆発し、抜本対策を求める叫びが拡大しているからだ。そんな中、トランプ大統領は教職員の校内での銃使用を許可するよう提唱。安全面への不安から反対論が多い半面、一部の州では校舎の防犯対策強化と併せて積極的に導入している学校もある。「銃には銃を」の発想で子どもを守れるのか-。先進的と言われる中西部オハイオ州の公立校を訪ねた。 (ワシントン田中伸幸)

 人口約2万人のシドニー市のシドニー中学校に到着したのは、3月下旬の午前9時すぎ。校門のない敷地には車で難なく入れた。授業中で、平屋の校舎の周りには人けがない。

 学校から事前に指定された正面玄関ではなく、あえて裏手の出入り口に回り、そこから入ろうとした。だが、鍵がかかっていて入れない。ドアには、こう書かれた張り紙があった。

 「警告 武装し、訓練を受けた即応チームに、子どもたちは守られている」

 正面玄関も施錠されており、来訪者は保護者を含めて全員、インターホン越しに職員に用件を伝え、解錠してもらわなければ入れない。中では腰に短銃を携えた元保安官の警備員が立ち、にらみをきかせている。近くにあったパソコンをのぞくと、校内約20カ所を映す防犯カメラ画像が並んでいた。

 遠くで生徒がノックして名乗り教室に入る様子が見えた。「あれはマナーではなく、先生が中から開けないと入れないようロックされているからだ」と警備員。全教室に事務室と連絡ができる電話が備えられ、事務室は警察と常時、無線でつながっているという。

 ふと、こんな疑問が湧いた。「こうした防犯対策を重ねても、銃を持った不審者は校舎や教室に入れるのでは?」。玄関のドアや教室の窓は防弾ガラスではなく、破ることは可能。警備員は1人だけで、常に玄関にいるとは限らない。中には教室のドアを開けたまま授業をする教師もいた。

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 「その通り。不審者の侵入は完全には防げない」。同校を含めシドニー市の小中高など計7校を担当するジョン・シュー教育長(67)は、あっさりと認めた上で続けた。「だから教職員に銃の使用を許可して、対策をより重層的にした」

 きっかけは2012年、東部コネティカット州の小学校で、児童ら26人が数分のうちに殺された銃乱射事件だった。当時、管轄する7校のドアは無施錠で、防犯カメラもなし。今は各校に1人いる武装警備員は、高校にしかいなかった。

 事件後、数百台の防犯カメラ導入など安全対策強化に着手。議論になったのは不審者が乱射を始めた場合、短時間でどう事態を収束させるかの対応だった。

 学校での銃乱射は統計上「17秒に1人の死傷者が出る」とされる。通報を受けた警官が学校に到着するまで最短でも3分。その間、発砲が続けば10人が撃たれる計算だ。武装警備員を複数置くにしても、人件費を賄う予算はない-。教職員用の短銃配備は、保安官事務所と協議し、費用対効果も考えた末の結論だった。

 教員や保護者からは、誤射の危険性などを心配する反対意見が上がったが、銃使用は希望する教職員に限定し、保安官らと毎月、射撃訓練などに取り組むよう義務付けるといった条件を設け、実施に踏み切った。

 13年に結成した「即応チーム」には、7校の全教職員の18%にあたる約40人が無償で参加。短銃約40丁は、指紋認証機能付き金庫に厳重に保管している。誰がメンバーかは学生や保護者には明かさず、「警備員が射殺された」などと想定し、空気銃を使う校内での模擬訓練も、校外での実弾射撃訓練もすべて非公開だ。

 幸い、これまで7校に不審者が侵入したり、即応チームが対応を迫られたりしたケースはないというが、将来は分からない。

 「教員になった20年前、校内で銃を扱うなんて思ってもいなかったし、今も使いたくはない」。メンバーの40代の男性教員はこう打ち明ける。「だが、襲撃はどこでもあり得る。教師には教育だけでなく生徒を無事に家に帰す役割もある」

 5歳で祖父から銃の使い方を教わり、今も友人と狩りを楽しむなど扱いには慣れているが、万が一の事態に備えた、最低月2回の射撃の自主練習は欠かさない。不審者を取り押さえるため格闘技も学びたいという。

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 シドニー市から車で40分ほどの室内射撃場で銃声を響かせていたジョー・イートンさん(52)は、教育関係者向けに銃襲撃時の対応を教える民間団体の指導員。計12州の教員やバス運転手、給食スタッフなど、5年間で1300人を訓練した。「シドニーの先生はよく鍛えられ、警官並みの狙撃技術を持っている」

 教職員による銃使用の機運は高まっており、フロリダの銃乱射事件後は、イートンさんの団体への訓練申し込みが毎日15~20件あるという。米国内で現在、校内での教職員の銃使用を州法などで認めているのはオハイオ、テキサスなど少なくとも10州以上あり、イートンさんは「大統領も『学校の抑止力向上』と言っているし、取り組みは広がるだろう」とみる。

 ただし教職員が銃を持っても、襲撃事件の犠牲者をゼロにできる保証はない。

 教育長のシューさんは「銃撃犯を確認後1分以内に制圧することが目標。取り組みはうまくいっている」と自信をみせるが、一方で「あくまで犠牲者を少なくする対策であり、事件の防止策ではない」とも語る。

 シドニーの小中高に3人の子どもが通う母親(39)によると、子どもたちは「安心感がある」と話しているという。しかし母親自身は、理解を示しつつも、銃配備への抵抗感を完全にはぬぐえないでいる。

 夫は息子を連れて狩りに行くなど、銃は暮らしの中に溶け込んでいる。「でも私は銃を好きではないし、もし先生がポケットに銃を突っ込んだまま授業するようなことをすれば、絶対許さない」と語気を強めた。

 「それでも…」と自分を納得させるように言った。「銃がなければ乱射は起きないけれど、銃は米国の文化だから減らせるかどうかは分からない。事件が続く現状では、銃配備以外に答えが見つからない」

 ●襲撃年10件 焦る保護者 対策強化へ寄付の動き

 米紙ワシントン・ポストによると、米国内の学校での銃撃事件は1999年に西部コロラド州のコロンバイン高校で13人が射殺されて以降、年平均10件程度発生し、生徒・児童や教師ら少なくとも130人が命を落としている。

 銃の購入規制などが進まず、再発防止の有効策が見当たらない中、教育現場は防犯対策を強化。統計によると、公立校での防犯カメラ設置率は2000年の2割弱から、16年には8割にまで増えた。トランプ政権が積極的な教職員の武器使用許可については、AP通信などが3月に実施した世論調査では49%が反対したものの、賛成も38%いた。

 一方、保護者を中心に地域が学校の安全強化に立ち上がるケースもある。

 南部ケンタッキー州コービン市の弁護士で、小学生2人の父シェイン・ロマインズさん(41)は2月のフロリダ事件の後、武器の持ち込みを禁じる裁判所などにある金属探知機の購入費を、地元の学校に寄付することを決定。他の保護者ら約20人と連携し、それ以外の安全対策費の寄付も申し出た。

 「金属探知機も含めて、どの安全対策も完璧と呼べるものはないが、議論ばかりで対応が遅い行政を何とか動かしたい」と訴えるロマインズさん。子どもが学校に持参するリュックに入る防弾用パネルを購入し、リュックを盾に身を守らせることも検討している。

=2018/04/02付 西日本新聞朝刊=

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