「危機的状況」コーヒー業界トップが語る産地の窮状 働き手が激減、転作相次ぐ

西日本新聞

多くの来場者が訪れた「コーヒーチャンピオンズトークin福岡」 拡大

多くの来場者が訪れた「コーヒーチャンピオンズトークin福岡」

コーヒーの果実の種子が生豆。これを焙煎する

 「コーヒー業界でそれぞれの分野を究める3人が一堂に会するイベントですから。ぜひ話を聞きたくて」。わざわざ東京から駆け付けたという男性会社員(24)は目を輝かせた。

 福岡市・天神で3月下旬に開かれた「コーヒーチャンピオンズトークin福岡」。その名の通り、コーヒーを入れる専門家「バリスタ」、コーヒー器具開発、焙煎(ばいせん)でトップを走る福岡県の3人が舞台に上がった。

 バリスタの世界大会で2016年、2位となったレックコーヒー(福岡市)の岩瀬由和さん(36)は1キロ数万円の希少種の豆を自ら抽出した。来場者は「フルーティーな香り」「冷めると甘みを感じる」と試飲を堪能。トロッとした口当たりも印象に残る。

 糸島市在住で、米アップル社のデザインエンジニアだったダグラス・ウェバーさん(39)はプロをうならせる自作の高品質ミルで豆をひいた。「満足いくエスプレッソマシンを造りたかったから」と起業の理由とコーヒーへの情熱を語った。

 焙煎の技を競う13年の世界大会で優勝した豆香洞(とうかどう)コーヒー(大野城市)の後藤直紀さん(42)は、ひたすら焙煎室にこもる日常を紹介。「生豆の管理を含めて、味をデザインするのが焙煎士」と語り、こんな言葉をつないだ。

 「コーヒーは今、危機的状況にあります」

   ◇    ◇

 生豆の買い付けに訪れた先々で見聞きしたのは産地の窮状だった。中米グアテマラでは気候変動の影響もあり病気がまん延、植え替えも進まない。熟した果実だけを摘み取る収穫は1日1~2ドルという昔ながらの低賃金が敬遠され働き手が激減。アフリカのエチオピアでは、買い取り価格の高さを理由に、コーヒーから麻薬の一種チャットへの転作が相次いでいた。

 コーヒーは栽培、収穫、果肉をはいで生豆にする精製、焙煎、抽出と消費者が口にするまで多くの人の手が入る。中でも焙煎は、酸化を最小限に抑えるため、先進国を中心とするコーヒー消費国で行われる。商品価格を抑えるため、消費国に比べ経済レベルが劣る産地からの出荷価格は低く抑えられるのが現状という。

 「今の出荷価格では農家は立ちゆかない。大元の栽培が持続できなければコーヒーそのものがなくなってしまう」。中間を省いた流通の構造改革が必要では、という思いは募った。

 そんなとき意外な仕事が舞い込む。大手家電パナソニックから家庭用焙煎機の事業に手を貸してほしいという依頼だった。

 焙煎機と毎月の生豆の購入をセットにした商品。季節ごとに変わる豆を焙煎するのに、熱風の温度、強弱、時間を設定するのが後藤さんの役割。もしかすると将来、焙煎士の仕事を奪うかもしれない。事実、多くの焙煎士は依頼を断ったという。なぜ引き受けたのか。

 「産地と消費者をつなぐと思ったんです」。ワインをワイナリーから買うように、コーヒーも農園などから直接生豆を買う。産地直送の仕組みができれば「正当な対価を農民が得られるようになるのでは、と」。

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 実は、イベントは同社の商品PRの一環で開かれた。インスタントコーヒーから、自分で湯を注いで抽出するドリップへ、そして次は焙煎も、という新たな食文化の提案でもあった。

 世界では毎日、20億杯が飲まれているという。日本は世界3位の消費国だ。産地直輸入をうたう焙煎豆の通販サイトも増え、産地の農園と契約する店もある。後藤さんも共同購入のグループの一員だ。途上国の商品を適正価格で買うフェアトレードの取り組みの一つだろう。生豆を扱う焙煎が身近なものになれば、消費者の産地への関心はより高まるかもしれない。

 食材や調理法、流通などの深い知識が料理を引き立てるともいう。コーヒーは豆を知ることが最高の一杯にたどり着く第一歩だそうだ。品質だけでなく産地の人や暮らしにまで思いを致し、一味違うアロマを醸すコーヒーを体験したい。

 「プロの熱意に感動です。僕もできることを考えたい」。東京のファンは笑顔で会場を後にした。

=2018/04/11付 西日本新聞朝刊=

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