「子どもを残して死ねない」白血病の宣告受けた男性 復職までの道のり

西日本新聞 医療面

【がんと働く】<2>家族のため 辞められない

 新年度の始まりとともに、男性(41)は自動車販売の福岡スバル(福岡市)に復職した。週2日、1日2時間の「リハビリ出勤」。感染予防のマスクが欠かせず、片道45分の通勤がこたえたのか、初日はどっと疲れた。

 それでも約1年のがん治療を乗り越えてきただけに、表情は明るい。「子どもたちに生活の心配をさせたくない」。その一念でここまで来た。

 昨年4月、微熱が続き、かかりつけ医で血液検査を受けた。異変を告げられ、翌日、九州がんセンター(同市)へ駆け込んだ。血液のがん「急性リンパ性白血病」と診断され、即入院。「死ぬかもしれん。いや、子どもを残して死ねない」。死の恐怖より、まだ小学生の長男(11)と長女(7)の心配が先に立った。

 抗がん剤と、がん細胞の増殖に関わる分子を狙い打ちする分子標的薬を組み合わせた治療が始まり、倦怠(けんたい)感や吐き気など激しい副作用に襲われた。

 6月初めに有給休暇を使い切り、休職した。月収の6割程度の傷病手当金は出るものの、治療費はかさむ。「仕事は絶対辞められん」と思う半面、「群馬の実家に帰るか」「自分が死ねば生命保険金が入る」…。さまざまな思いが駆け巡った。

 冬になり、骨髄移植がかなった。それでも5年生存率は決して高くない。「家族のため、できることは全てしておきたい」。退院が見えた2月半ば、院内のがん相談支援センターに常駐する社会保険労務士に相談を始めた。主治医や医療ソーシャルワーカーも交えて復職プランを練った。

 国は2016年、がん対策基本法を改正し、企業に患者の雇用継続に配慮する努力義務を課した。治療と就労の両立を支援するガイドラインも策定した。男性のプランもそれに沿っている。事務から始め、5月に体調を見ながら徐々に勤務時間を増やし、7月からは週5日、1日8時間の通常勤務に復帰する。10月からは、10年以上励んできた営業に戻る予定だ。

 デスクワークへの転換や時差出勤など、会社は希望をそのまま受け入れてくれた。営業支援部の橋口加奈係長(45)は「実績のある中堅社員を失いたくない」と話す。

 「仕事も体調も収入も、早く元通りにしたい」。男性の目標はぶれない。

 一方、法律は整ってもあくまで努力義務であり、中小企業や非正規職員では支援が行き届かない現実もある。

 自治体の嘱託職員として働く助産師(49)は昨年10月、初期の肺腺がんで右肺の3分の2を切除した。2週間後に退院でき、主治医に「明日から仕事をしていい」と言われたが、心身ともに自信が持てなかった。そもそも復職プランなどなく、手探りしながら自分で決めるほかなかった。

 12月まで待って復職した。がんを経験した同僚がいたおかげで、重い物は持たない、当面は事務といった配慮は受けられた。「痛みやつらさを分かってくれる人がいて救われた」。その分、職場に迷惑を掛けているという遠慮が膨らみ、今年2月には通常の仕事量に戻した。

 ただ、半年たった今も体力は7~8割しか回復しておらず、せきが止まらない日もある。一日が終わるとぐったり疲れる。それでも仕事を辞める選択肢はない。15年前に離婚し、両親の助けを借りながら息子(18)を育ててきた。この春に大学へ進み、授業料と自らの治療費が重なる。

 そもそも手取りが18万円弱でボーナスもなく、手術前は正職員か、収入が増える夜勤職場への転職を考えていた。「がんになって選択の幅が狭くなった…」。少しだけ焦りを感じている。

 ●健康なうちに制度を知ろう

 働く世代ががんになったとき、休職や働き方の変化に伴う収入減は大きな心配事になる。福岡市のファイナンシャルプランナー世継祐子さん(50)=写真=は「治療費に備え、三つの制度を知っておくことが大切」と話す。

 まずは傷病手当金。健康保険組合、協会けんぽなどの被保険者は、申請すれば最長1年6カ月間、休職前1年間の標準報酬月額の平均の約3分の2が受け取れる。

 高額療養費制度は、医療機関や薬局で支払った額が1カ月で自己負担限度額(年齢、所得で異なる)を超えると超過分が払い戻される。世継さんは治療を始める前に限度額適用認定証(1年有効)の取得を勧める。窓口で提示すれば超過分を払わなくて済む。

 三つ目は高額療養費貸付制度。1カ月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、高額療養費支給見込み額の8~9割相当を無利子で借りられる。社会保険に加入していない自営業者や非正規労働者などに役立つ。

 世継さんは「月収の3~6カ月分の貯金があると治療中も安心できる」と指摘。がんと分かると、うつ状態になって前向きに考えられなくなる人も多いため「健康なうちに使える制度を知っておいてほしい」と呼び掛ける。

 社会保険労務士ら多職種が連携するNPO「がんと暮らしを考える会」が運営するサイト「がん制度ドック」(http://www.ganseido.com/)は年齢や性別などに合わせて使える制度を検索できる。

=2018/04/16付 西日本新聞朝刊=

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