コーヒーの魔法 うまさ極めたい 自ら抽出マシン 米から福岡・糸島へ ウェバーさん 全世界に販路

西日本新聞

自宅アトリエでダグラス・ウェバーさん。「機械の分解、組み立てが子どものころの遊びでした」 拡大

自宅アトリエでダグラス・ウェバーさん。「機械の分解、組み立てが子どものころの遊びでした」

「世にある最高の品」を自負するグラインダー

 コーヒーは確かにうまいし、落ち着く。原稿を書くときにも欠かせない。そのために会社を辞めようとは思わないが、エスプレッソマシンを開発するために世界有数の企業を退職した米国人が福岡県糸島市に暮らしているという。人を突き動かすコーヒーの魔力を知りたくなった。

 「うちはもっぱらエスプレッソベースです」。そう言ってダグラス・ウェバーさん(39)が自ら設計した豆をひくグラインダーを回した。手動とは思えぬ速度で、ひき上がった粉をエスプレッソマシンにセットし、高圧の蒸気で一気に抽出する。レバーを下げると茶色の液体がトローッとグラスに落ちてきた。

 「レバーを通して味の良しあしが手に伝わってくるんです。これは完璧」

 同量の牛乳と氷、蜂蜜を入れてかき混ぜる。「これが僕の夏の定番です」。ウェバー流アイスカフェラテは実に香ばしく濃厚。できるなら、ずっとのどにとどめておきたいぐらいだ。

 イスラム教の修道者が眠気覚ましに飲んだのが最初とされるコーヒー。焙煎(ばいせん)が複雑な苦味、奥行きとこくをもたらす。滑らかな舌触りは官能的でさえある。

 マシンを扱う姿は真剣そのものだ。「何千回やっても飽きないですよ。めっちゃ楽しい。しかもこんなにおいしいんだから、究極のドリンクです」

    ◇   ◇

 ロサンゼルス出身のウェバーさんはスタンフォード大から京都大に留学。2001年には九州大に1年留学した。その頃、中学時代に学び、好んだ陶芸が糸島との縁を結び「いつかここに住みたい」と願った。

 帰国後、アップルに入社した。当時、米国では品質にこだわったスペシャリティーコーヒーが普及。職場にあったマシンで入れるエスプレッソに魅せられた。

 土が生み出す果実の種が生豆に加工され、見知らぬ栽培国から運ばれる。焙煎、抽出を経て「他に匹敵するものはない飲み物」になる。片や、どこかにミスが生じると台無しになる。そんな神秘性とはかなさに、一層とりこになった。同時に「ミスの多くは機械が原因」と気付いた。「自分が関われるのはそこだ。いつか自分の手で、と思いながらiPhone(アイフォーン)を作ってました」

 独立のきっかけはインターネットで購入したグラインダーだった。いつものように分解して中身を点検。「応援する気持ちで」改善点をまとめ、販売主に送った。彼はハリウッドで活躍するコンピューター・グラフィックの専門家だった。「世に満足できるエスプレッソマシンがない。自分たちで作ろう」と意気投合。それぞれ退社して14年、「リン・ウェバー・ワークショップ」を設立した。

    ◇   ◇

 糸島には17年3月に移住した。6年前から準備に入り、約5千平方メートルの土地を購入。畑やビニールハウスを整備して自宅を建てた。

 主力商品のグラインダーは粉の粒がそろう精度の高さがプロを引き付ける。「一生ものどころか、代々使える最高の商品」。磁石付きの部品はワンタッチで分解、組み立てられる。残った粉は、はけ一つ、わずか数秒で掃除ができるため古い粉が混じることはなく、重要な鮮度が維持される。電動式3295ドル(約35万円)、手動式985ドル(約10万5千円)と高価だが、既に全世界で約2千台を売った。

 1杯分ずつ豆を密閉保存する容器や、抽出を均一にしてくれるシェーカーなどの関連品も全て、コーヒーをおいしくする理詰めの製品。念願のエスプレッソマシンは年内に商品化の見通しだ。「アップル的なものを設計に落とし込んだスマートなデザイン」という。

 遠くに玄界灘を望む自宅は物作りに専念するのに絶好の環境に思える。日々、設計室でパソコンに向き合い、畑の手入れをする。別に設立した「カマキリワークショップ」の革細工も作る。陶芸は会社が落ち着くまでお預けだ。傍らにはいつも妻と1歳の息子がいる。そしてコーヒーがある。

 さすがに会社は辞められないけれど、しばらくはエスプレッソにはまりそうだ。

=2018/04/25付 西日本新聞朝刊=

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