文化財保護法 活用は手厚く守ってこそ

西日本新聞

 文化財保護法改正案が今国会に提出された。観光やまちづくりへの文化財活用を後押しする内容で、保護中心から保護と活用の両立への転換を目指す。

 地域振興に生かすことで文化財の価値を広く共有し、保護の機運を高める方向性は理解できる。とはいえ、法隆寺金堂壁画焼損(1949年)を機に制定された法律の主眼は保護にある。忘れてはならない原点だ。

 古い美術工芸品は微妙な環境の変化で、取り返しがつかない損傷を被ることもある。活用と保護の間で適切なバランスを取ることが肝要だ。慎重な国会審議を求めたい。

 改正案によると、市町村は文化財の保存と活用に関する地域計画を策定する。計画が国の認定を受けると、市町村の判断で一部の現状変更が認められるようになる。

 史跡に仮設の案内所を設置したり、電線を地中に埋設して景観を良くしたりするような変更が想定される。

 併せて、地方教育行政法も改正し、教育委員会が担っている文化財保護業務を、首長に移管できるようにする。観光やまちづくりへの活用を円滑に進めることが狙いだ。

 地方では高齢化や過疎化が進み、所有者の代替わりなどで散逸や消失の危機に直面している歴史遺産が少なくない。

 重要文化財などに指定されていない遺産も含め、地域全体で継承に取り組む新たな仕組みを整えることに異論はない。

 気掛かりなのは、政府の姿勢があまりにも「活用重視」に傾いていることだ。

 法改正の背景には、インバウンド(訪日外国人客)を対象とした観光資源として、文化財の活用を進める現政権の「観光立国」という戦略がある。

 地方創生担当相が昨年、「一番のがんは文化学芸員。観光マインドが全くない」などと暴言を吐いたことは記憶に新しい。文化財を単なる観光資源と見なす風潮が、法改正の底流にあるとすれば、看過できない。

 自治体が文化財の保護と保全に万全を期すためには、専門職の養成と配置が欠かせない。

 その余裕がない小規模な町村には、財政と人材の両面で支援する必要がある。こうした手当ては大丈夫なのか。

 集客が見込める建造物などが大切にされ、古文書など地味な文化財が軽視される傾向が生じないか。また、首長が活用にはやり、保護がおざなりになる懸念も拭えない。地方の文化財保護審議会などで厳しくチェックする必要があるだろう。

 地域の文化財を未来へ継承することは、地域の責務だ。手厚く保護してこその活用である。

=2018/04/29付 西日本新聞朝刊=

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