水俣病確認62年 救済は「終わっていない」

西日本新聞

 この悲痛な叫びに国は真剣に応えなければならない。「最後だと思って来ました。何べんでも言ってきました。水俣病は絶対に終わっておりません」

 胎児性水俣病患者の坂本しのぶさん(61)は、スイスで昨年9月に開かれた「水銀に関する水俣条約」第1回締約国会議で訴えた。

 水俣病が公式確認されてからあす5月1日で62年となる。昨年の条約発効により、水俣病は名実ともに世界が協力して防ぐ公害病となった。

 にもかかわらず、国内では今なお1500人余が被害を訴え、国や原因企業のチッソを提訴するなど救済を求めている。「最終解決」をうたった水俣病被害者救済法の成立から来年で10年になる。それでも「終わっていない」という坂本さんの訴えは痛切だ。

 ここまで解決しなかった理由は明らかである。国が「疑わしきは救済する」という姿勢をかたくなに避けてきたからだ。症状や居住地域を限定的に捉えたため、認定した患者はこれまでに2200人余にすぎない。

 最高裁は国の認定基準より幅広い救済を認めた。これを受け、超党派の議員立法で生まれたのが被害者救済法である。

 この法律に基づいて国は認定患者とされていない5万3千人余を被害者と認めて救済の道を開いた。それでも対象外となった人々の提訴は続いている。

 救済法の対象地域は熊本、鹿児島両県の6市3町の範囲に限られる。一昨年、新たな問題が提起された。地元医師らが対象外地域に住む1600人余を調べたところ、9割の人に水俣病特有の感覚障害などが認められたという。被害は行政が指定した狭い地域にとどまらないと考える方が自然ではないか。

 全面解決するには対象地域を広げて的確な健康被害調査を実施することが不可欠だ。水俣病の教訓は、被害の実態から目をそらし、原因を隠した国とチッソの体質にこそある。

 「苦海浄土」の作者、石牟礼道子さんが2月に亡くなった。90歳だった。執筆活動に取り組む傍ら、患者団体の裁判や救済活動に深く関わった。「最終解決」の場に立ち会えず、さぞ無念だったことだろう。

 公害は人間がつくり出した災害である。経済成長が優先され、何の落ち度もない人たちが犠牲になった。有機水銀に汚染された魚介類を食べ、心身をむしばまれた。

 水俣条約は水銀による健康被害や環境汚染の防止を目指す。日本の教訓を世界に広めなければならない。その前提は、まだ終わっていない水俣病の「最終解決」である。

=2018/04/30付 西日本新聞朝刊=

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