女性記者批判は問題のすり替え 財務次官のセクハラ 門奈直樹・立教大名誉教授に聞く

西日本新聞

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門奈直樹・立教大名誉教授

 財務省の福田淳一前事務次官によるテレビ朝日の女性記者へのセクハラ問題。福田氏は否定を続けているが、同省は「セクハラはあった」と認定した。だが、被害者が実態を記録するために会話を録音したことや、週刊誌の取材を受けたことに対し、自民党の一部議員から「福田氏ははめられた」などの不適切な発言が続出。ネットでも被害者を中傷するかのような書き込みが見られる。被害者が責められる社会の背景には何があるのか。メディア論が専門の門奈(もんな)直樹立教大名誉教授に聞いた。

 -女性記者に対する批判をどう捉えているか。

 「政府高官によるセクハラの問題が、ジャーナリズムの倫理(取材上のモラル)の問題にすり替えられている。セクハラ発言は人権上の問題であり、政府高官による人権問題への告発は公益性がある。本来、ゴシップではないのに女性記者への批判が出る状況は遺憾だ」

 -告発の公益性とは。

 「事務次官は省の事務方トップでいわゆる権力者、公人だ。オフレコの場とはいえ、森友、加計(かけ)学園問題の取材に来た女性記者に対し、福田氏は職務上持ち得た情報を、自らの欲望のために取引材料に使った」

 「セクハラがなくならない世の中で、特に権力者のこのような行為を報じることは、市民の『知る権利』に応えることになる。市民が議論する材料を提供することになり、公益性がある。イギリスなど欧米では公益性のある報道をする場合、隠し録音は違法とはみなされない。今回は隠し録音が許されるケースだ」

 -女性記者が録音データを他メディアに提供したことへの批判も多い。

 「日本の組織ジャーナリストは会社に縛られている傾向が強い。欧米の場合、個々の記者は1人のジャーナリストとして新聞社などと雇用契約を結ぶ。組織の人間ではあるが、独立した意識が強い。自社で報じられなければ、他社へ持ち込むことはあり得る。今回は事実を社会に伝えようとした際、他に方法がなかったからであって、女性記者を責めることはできない」

 -女性記者はセクハラを報道しようと上司に相談したが、実現しなかった。

 「報道すべき事案だった。結果的にみれば、同社は報道機関としての社会的な責任が欠如していた。森友、加計学園が政治問題化している折、当事者である財務省のスキャンダルを報じて良いのかという認識があったのではないか。放送は国の免許事業なだけに政権への忖度(そんたく)が出て組織防衛が優先されたとも読める」

 -テレ朝は財務省に調査継続と、福田氏の謝罪を求めている。

 「冒頭で問題がすり替えられていると話したが、外務省機密漏えい事件(1972年)と同じ雰囲気を感じている。本質は密約だったにもかかわらず、男性記者と情報を提供した外務省女性事務官の不貞という話にすり替えられた。セクハラ問題はメディアでも自分たちの問題として取り上げず、第三者的な報じ方が多い。今回問われたのは、巨視的に見れば現政権の国民軽視の体質である一方、メディアの報道姿勢でもある」

=2018/05/03付 西日本新聞朝刊=

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