吉岡染の1本線が男女の境目【しもじもの話】

西日本新聞

 赤ちゃんのオムツを換える時、気付いた人がいるかもしれません。男なら誰もが股間に隠し持つ、“吉岡染(よしおかぞめ)”の1本線。ペニスの裏側から袋(陰嚢(いんのう))の真ん中を走る赤みがかった暗黒茶色の線は、男性の体が女性の変化型であることの証しです。

 人間の体には男と女という性別があります。実はその基本型は女性です。受精卵は通常お母さんの子宮の中で女の子に成長します。女性ホルモンの作用がなくても、自然と女の子になるのです。一方、受精卵にY染色体があると、胎児に精巣(睾丸(こうがん))がつくられます。そこから男性ホルモンが分泌され、男性化が起こります。男の子になるには男性ホルモンが必要です。

 男女の外性器は一見違いが大きいように見えます。ところが女性器になる部分は、男性ホルモンの作用を受けると左右に分かれず、真ん中でくっついてペニスや袋になります。生まれた時に「オチンチンがあるから男の子ですよ」と言われるのは、それが男性化の象徴だから。基本の女性型から変化したのが男性の外性器、もとをただせば同じです。そして変化の痕跡が、あの1本線なのです。

 私は研修医時代を福岡大病院で過ごしました。「2年間お世話になりました。新しい病院で頑張ってきます」。3年目からは筑豊の基幹病院へ。勇んで来てはみたものの、暇さえあれば病棟の窓から、福岡の方の空ばかり眺めていたようです。見かねた看護師長が「先生、何しようとかい。もう帰られんとばい。キンタマ付けちょうやろ。覚悟しんしゃい」。川筋女からハッパを掛けられました。

 小さい頃には熊本・天草のばあちゃんから「なったごつじゃっか(くよくよするな)」と励まされたり慰められたり、今では肥後の猛婦たちから「がまだしもん(頑張り屋)」っておだてられ。いつの日も基本型から支えられてきました。「女はツヨかぁー」。こんなことを言うと叱られそうですが、つくづくそう思います。男女は一幹両枝。男性化は進化ではなく、あくまで女性の変化型。性差を尊重し、補い合っていきたいものです。

 (泌尿器科医・池田稔)

=2018/04/23付 西日本新聞朝刊=

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