在宅みとり 誰が担えば… 多死時代へ 医師も施設も備え急務 診療、介護報酬が同時改定

西日本新聞

母親の貞子さんの写真を掲げて思い出を語る久野寛さん。生前、在宅での介護を約6年続けた 拡大

母親の貞子さんの写真を掲げて思い出を語る久野寛さん。生前、在宅での介護を約6年続けた

 お年寄りに、住み慣れた自宅や地域で人生の最期を迎えてもらうにはどうするか。国は4月、6年ぶりに同時改定した診療報酬と介護報酬で、在宅医療や施設でのみとりを進める方向性を強め、「入院から在宅へ」の流れを加速させた。団塊の世代が全員75歳以上になり社会保障費が増大する2025年に向け、費用がかかる入院から、施設や自宅へ誘導する狙いがある。しかし現場には課題が残る。

 福岡市の久野寛さん(76)は昨年12月、母の貞子さん=当時(94)=を市内の病院でみとった。延命措置はなく、看護師も驚く穏やかな最期だった。

 寛さんは11年、認知症だった貞子さんが住む市内の実家に移り、2人暮らしで介護してきた。夜中に家の中を歩き回ったり、自分の便を壁に塗りつけたりする行動には悩まされた。当時応募した特別養護老人ホーム(特養)は入所まで「350人待ち」だった。

 主治医に教わった接し方で徐々に症状が落ち着き、自宅でみとりたい思いもあった。ただ、新たに応募した特養が昨年4月に空き、「断ればまた順番待ちになる」と悩んだ末に入居。間もなく容体が急変し、病院に移って亡くなった。

 自宅でのみとりは理想だと、今も思う。ただ、6年間の介護で「認知症の介護は終わりが見えない。医師が訪問診療してくれても家族の負担は重く、簡単じゃない」と感じている。

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 今回の改定で在宅重視の流れが進んだのは、国内の年間死者数が20年には140万人を超え、「多死時代」に入ることがある。病院でのみとりは物理的に限界点に近づく。そこで改定では、介護施設でのみとりを推進するため、施設と医療機関が連携して最期をみとった場合、双方が報酬を受け取れるよう仕組みを変えた。国の意識調査でも末期がんで痛みが少ない場合、人生の最終盤をすごしたい場所に「在宅」を挙げた人が約7割を占め、ニーズは高い。

 ただ、在宅医療に24時間体制で当たり、中心的な役割を果たす在宅療養支援診療所(在支診)の数は伸び悩んでいる。一般の医療機関が外来患者を診ながら訪問診療をすることもあるが、24時間体制は負担が重く、在支診として登録するのを敬遠するためだ。こうした影響で、在宅でみとりをしている医療機関は全国で5%程度にとどまる。

 福岡県のある在支診の男性医師=50代=は、この1年で50人以上をみとった。医師2人で患者約230人を受け持つ。交代で夜中も待機し、携帯電話と診療かばんは手放せない。医師が自分だけだった頃は休日がなく「精神的にも体力的にも、もたないと思った」

 過去の診療報酬改定には翻弄された記憶もある。14年4月の改定では、高齢者施設で大勢の患者を訪問診療した際の報酬が減らされた。近くの施設で担当医が突然みとりを拒み、困り果てた施設側に頼まれ、診療とみとりを引き継いだ。

 「今の在宅医療は、熱意ある医師の負担で成り立っているのが現状」と男性医師は訴える。

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 施設も環境は厳しい。九州北部のある特養は近くに在支診がなく、みとりに対応できない。夜中に高齢者の容体が急変すると、職員が病院に運ぶか、救急車を呼んでいる。夜は提携病院が当直体制になるためだ。

 「夜中は『救急患者が入ったから朝しか往診できない』と言われる。入院から在宅へ、の考え方はいいが、現実は追いついていない」。担当者は語る。

 東京大高齢社会総合研究機構(東京)の辻哲夫特任教授は「医師が少ない地方では公的病院が中心となって在宅医療に取り組むべきで、そこから地元の開業医を支える体制が望ましい。国内では団塊世代が80歳を超えると外来に来ることができないケースが増える。今から体制を整えておく必要がある」と指摘する。

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【ワードBOX】在宅療養支援診療所(在支診)

 在宅医療を支える窓口として訪問診療や緊急往診、訪問看護サービスを24時間体制で提供する。2006年に創設された病院・医院の施設基準の一つで、「24時間往診可能」など一定条件を満たして国に届け、認可されると診療報酬が上積みされる。国内には1万4683カ所(16年3月末)あるが、全国の市町村のうち3割弱は在支診のない空白地域だ。

=2018/05/18付 西日本新聞朝刊=

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