もし「ヌヌ」がいたら 編集委員 井手 季彦

西日本新聞

 兄弟であろう2人の子を連れた気のよさそうな女性や、ベビーカーを押しながら他の子どもたちと遊ぶ子を見守る女性…。小学校の放課後となる午後4時ごろ、パリの公園で普通に見かける風景だ。女性の多くは原色の布を頭に巻いたアフリカ系の人。子どもの母親ではなく「ヌヌ」と呼ばれるベビーシッターだ。

 欧米の多くの国と同じく、フランスでは小学生の登下校に保護者の同伴が義務づけられている。大半の家庭が共働きなので「ヌヌ」を雇うことになる。日本では、先ごろ起きた新潟市の小学2年生、大桃珠生(たまき)さんの事件や、千葉県松戸市で昨年、小学3年生レェ・ティ・ニャット・リンさんが殺害された事件など、登下校時を狙った犯罪は後を絶たない。もしそこに「ヌヌ」がいたらと思ってしまう。

 保護者の送り迎えが各国で一般的なのは、小児性愛者(ペドファイル)の危険性が広く認識されていることが理由の一つだ。それに比べて日本では、小児性愛があまりに特異な性的嗜好(しこう)のためか、それを語ることさえタブー視されているような気がする。そして治安がいいことを前提に、子どもたちはほとんど無防備に登下校しているのだ。

 一部では、衛星利用測位システム(GPS)機器を子どもに持たせ学校への出入りを親に通知したり、福岡市地下鉄のように利用児童がICカードをかざせば駅を通過したことが分かったりするなど、見守り対策は進化している。監視カメラの増加も犯罪抑止に役立っているだろう。それでも、少子化で集団登下校は昔より減り、地域の結びつきが薄れる中、「人の目」はますます届かなくなっている。

 もちろん「ヌヌ」のいるフランスでも事件は起きている。先月「友だちの所へ行く」と家を出た少女(13)が遺体で見つかり、男性容疑者(45)が逮捕された。これを受け、性的目的で子どもを追い回したり写真を撮ったりする小児性愛者への罰則強化の議論が高まっている。市民団体「危険の中の無邪気さ」のオメラ・セイエ代表は小児性愛犯罪者に関し「犯行を繰り返す傾向が強い。1人が人生の中で約120人の子どもを犠牲にするという統計もある」とマリ・クレール誌に語る。

 殺害事件が起きると大きく報道されるが、表に出ない小児性愛者による被害は無数にあるということだ。そして多くの子どもが大人になっても消えないトラウマ(心的外傷)を背負っていく。日本でも小児性愛者の存在をタブーにせず、病理や危険性の解明を含め、抜本対策を講じなければならないと強く思う。

=2018/05/22付 西日本新聞朝刊=

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