カンボジアで水道の奇跡再び 北九州市が人材育成支援 地方8都市で日本流伝授

西日本新聞

カンボジア中部のコンポンチャム州で水道管の漏水検査を指導する広渡さん(右)=石川正頼(C)/JICA提供 拡大

カンボジア中部のコンポンチャム州で水道管の漏水検査を指導する広渡さん(右)=石川正頼(C)/JICA提供

「カンボジアでは下水施設の不備で、河川などの水質が悪化している」と話す広渡さん=プノンペン

 カンボジアの首都プノンペンは水道水をそのまま飲めるアジアでは数少ない都市だ。安全で安価な給水を可能にした改革は「プノンペンの奇跡」として知られるが、その裏には北九州市による息の長い支援があった。市は今も職員をカンボジアに長期派遣。地方の8都市で再び「奇跡」を起こそうと奮闘している。 (バンコク浜田耕治)

 プノンペンの中心部にある工業手工芸省。むわっとした熱気に包まれた庁舎に「北九州市」と胸に書かれた作業服姿の男性が現れた。国際協力機構(JICA)チーフアドバイザーの肩書を持つ広渡博さん(46)。北九州市が技術協力のために2015年4月から派遣している職員だ。

 「水を飲んで、日本のことを思い出してくれる人が増えたら最高ですね」と広渡さんは言う。取り組むのは地方の8州都にある公営水道局の経営改善だ。浄水場から配水したのに漏水などで料金として回収できない水の割合を示す「無収水率」を低くするのも仕事の一つ。住民が寝静まった午前1時から地区を歩き回り、細長い棒状の器具を「聴診器」のように使って水道管の状態を調べる。

 「水道メーターが回っていないのに管から水の流れる音が聞こえたら、それは盗水か漏水のサインです。『この音を聞いてみて』と現地の職員たちに教えています」。メーターを回り道する配管を敷設して、盗水を繰り返していた事例を突き止めたこともある。

 こうした指導のかいあって、無収水率は8州都のほぼ全てで10%以下に。安い消毒薬品に替えたり、2週間おきにしか行っていなかった集金業務を毎日行うよう指導したりして、16年までに水道事業の黒字化を達成した。「プノンペンで成し遂げた奇跡を、地方にも広げたい」と広渡さんは表情を引き締める。

 ただし、ジレンマもある。北九州市は日本政府の要請を受けて1999年から専門家の派遣を開始し、短期・長期合わせて延べ77人を送り込んだ。7割だったプノンペンの無収水率を9%以下に減らす「奇跡」に貢献したほか、主要都市の水道基本計画の策定に関与しているが、自治体である以上、北九州市民に役立つことも求められる。

 市は2010年に官民連携組織を設立し、市内企業の関連技術の輸出を進めているが、カンボジア国内での市内企業の契約実績は15件(約12億円)。「コスト面で海外企業との競争は厳しい。施設設計などの早い段階から日本企業の技術を売り込み、一つでも多くの商機につなげたい」と北九州市海外事業課の矢山将志担当係長は話す。

 カンボジアでは今、中国が存在感を増している。政府の援助額で中国は10年に日本の1億4千万ドル(約154億円)を抜いて1位となり、それ以降は毎年、日本の2~3倍の援助額を拠出している。道路、港湾、橋…。「もはや金額で張り合える相手ではない」とJICA関係者は言う。

 しかし、プノンペンの水道が安全なのは「日本のおかげ。みんな知っている」とカンボジア人男性(34)は強調する。施設を造って終わりではなく、維持管理できるよう人材まで育成するのは日本流の国際支援。広渡さんは「これからも現地の職員の横に立って仕事をしたい。粛々と、私たちのやり方で」と語った。

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都市インフラ整備に商機も 福岡の自治体、東南アジア進出

 6億人の市場を抱え、高い経済成長が続く東南アジアには、水道やごみ処理といった都市インフラに強みを持つ福岡県の自治体が相次いで進出している。

 北九州市は1999年から培った水道事業支援での信頼関係を踏まえ、昨年2月にカンボジアの首都プノンペンと下水道分野での技術協力に関する覚書を結んだ。福岡市も2016年に投資先として有望なミャンマーの最大都市ヤンゴンと姉妹都市になった。両国はインフラの整備が加速するとみられ、北九州、福岡両市は企業の参入を後押ししたい考えだ。

 福岡県は10年、タイの首都バンコクに事務所を開設し、職員2人を常駐させている。東南アジアに活路を求める県内企業のサポートや交流促進が狙いで、人脈を生かして在福岡タイ総領事館の10月新設にもつなげた。「福岡の存在感を高め、観光客誘致を進めることも課題の一つ」という。

=2018/05/24付 西日本新聞夕刊=

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