<48>「悦び」実感 長男誕生

西日本新聞

●バルセロナ五輪女子マラソン日本代表 小鴨 由水さん

 夫「なかなかできんね」

 私「うーん、こればっかりはね。得意の駆けっことは違うもん」

 2000年にマラソン競技に区切りをつけた後、私たち夫婦の会話は、いつもこんなふう。そう、子どものことです。結婚して、もう丸2年になるのです。

 12月にようやくその兆候が表れました。まずは薬局で妊娠検査薬を買ってきて、自分で調べてみることにしました。その結果は「ピンポン」。早速、仕事中の夫の松永光司(こうじ)に電話しました。大喜びすると思いつつ「私、妊娠したみたい」と伝えると、「何で1人で見たんだ。ずっと楽しみにしていたのに!」。

 日頃は柔和な夫がものすごく怒るのです。面食らいましたが、その瞬間の喜びを夫婦で分かち合いたかったそうです。「ごめん、ごめん」と謝りました。

 数日後、夫に付き添われ産婦人科に行くと、妊娠3カ月でした。超音波で撮影した写真をもらうと、赤ちゃんはちっちゃい卵くらいの大きさです。夫は写真を大事そうに手にして、にやにやしっ放し。私も幸せな気分になりました。

 妊娠4カ月になって、ずっと欲しかった母子手帳をもらい、「母親になるんだ」と実感しました。ただ、私は医師からくぎを刺されます。「あなた、このままでは妊娠中毒症になるよ」

 そう、現役時代も私を悩ませ続けた「体重」への注意でした。既に73キロで、80キロを超えると赤信号とのこと。以後、バランスの良い食事を心掛けました。

 夫は夫で、子どもの命名に頭を抱えていました。夫婦それぞれの名前から1字を取り、男なら「○司」、女なら「○水(み)」にするとまでは決めたのですが、その先が大変です。辞典を何冊も買ってきて、夜ごと画数を数えていましたね。

 私は兵庫県明石市で里帰り出産しました。予定日から遅れること4日。01年8月7日夕方にようやく、3338グラムの男の子が生まれました。「おぎゃー」という第一声を聞いた瞬間、「生まれてくれてありがとう」という気持ちでいっぱいになりました。生まれたての赤ちゃんはくしゃくしゃの猿顔だけど、とてもかわいくて…。親ってみんな、親ばかなんですね。

 長男の名は、たくさんの悦(よろこ)びに巡り合えるよう「悦司(えつじ)」と名付けました。夫は2週間後にようやく休みが取れて明石へ。こわごわとした手つきで悦司を抱き、「ありがとう。僕もしっかりせんとね」と言いました。

=2018/05/29付 西日本新聞朝刊=

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