<52>産後2カ月で10キロ走

西日本新聞

●バルセロナ五輪女子マラソン日本代表 小鴨 由水さん

 2006年、次男の松永壮司(たけし)を出産してから2カ月後の3月26日、私はゲストランナーとして、「小郡ロードレース大会」(現福岡小郡ハーフマラソン大会)に出場することになりました。オファーを頂いた時は既に妊娠中でしたが、先方から「来てくださるだけでいいですよ」と言われ、OKしていたのです。

 私は一番短い1・5キロの部に出場。マイペースで走り終えたら、会場に「10キロは10分後にスタートです」とのアナウンスが流れています。市民ランナーの方々が「小鴨さんも一緒に走りましょうよ」と呼び掛けてくるので、「じゃあ私も」と、続けて10キロの部に飛び入りしたのです。私ってお調子者ですかね?

 久しぶりにロードで風を切る感覚がとにかく気持ちよかったのです。出産後の貧血症状が少し残っていたので、さすがに残り3キロは歩きました。それでも、沿道の人や追い越していくランナーにたくさん手を振り、笑顔でゴールしました。

 その直後、私のおっぱいは、ぱんぱんに張っています。預けていた次男のもとに駆け寄って、授乳しました。「ゴクゴク、ゴクゴク」。夢中でおっぱいを飲む次男の顔を眺めながら、私は充足感に満たされます。すると、「やっぱり、走るのはいいなあ」。そんな思いが湧いてきたのです。

 考えてみると、海外には出産後も第一線で活躍する「ママさんランナー」がたくさんいます。1992年の大阪国際女子マラソンで私と一緒に走ったクリスチャンセンさん(ノルウェー)やドーレさん(ドイツ)が、まさしくそうでした。特にクリスチャンセンさんは、4位に沈んだ84年ロサンゼルス五輪の後、幼いわが子の顔を見て走る意欲を取り戻し、翌年のロンドンマラソンで驚異的な世界最高記録を出したのです。

 確かにメンタル的に、子どもがいることは大きな違いをもたらすようです。全力で走り終え、また子どもを抱っこできる安心感というか…。1人で走っていた時とは全く違う感覚が、私の中に芽生えていました。

 いつかママとして、マラソンを走ってみたい-。そう思い始めた私ですが、いつも足かせになるのが体重です。ところが、2人目を産んで体質が変わったのでしょうか。しっかり母乳を与えているだけで、食事制限もなしに、私はみるみるほっそりしてきたのです。

 「これはいけるかも」。私は再び、仕事と育児の合間を見て走り始めました。

=2018/06/02付 西日本新聞朝刊=

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