マンホールのふた「家“栽”」表記の謎 人気漫画を先取り? 福岡

西日本新聞

「家裁」ではなく「家栽」と記されたマンホールのふた(福岡家庭裁判所提供) 拡大

「家裁」ではなく「家栽」と記されたマンホールのふた(福岡家庭裁判所提供)

漫画「家栽の人」を手にする知名健太郎定信弁護士。中学生時代から愛読し、弁護士を志すきっかけになったという=福岡市中央区 漫画「家栽の人」原作者の毛利甚八さん

 少年審判の舞台となる福岡家庭裁判所(福岡市中央区大手門)に、知る人ぞ知るマンホールのふたがある。本来なら「家裁」と記されているはずが、よく見ると「家栽」。「裁」の字が「栽」になっているのだ。少年を裁くのではなく、育てる(栽培する)との意味が込められているのか。8月の家裁庁舎の移転を前に、ふたの歴史に迫った。

 「家栽」と記されたふたがあるのは、裁判所の敷地内にあるマンホール約30カ所のうちの12カ所。「なぜ『裁』ではなく『栽』なのか、事情は分からない」(福岡地裁総務課)という。

 ふたを見ると「FUKUOKA SETO」の文字が。特命取材班が九州の鋳造メーカーをたどると、福岡県新宮町の「瀬戸製作所」に行き着いた。「うちで作ったもので間違いありません」と瀬戸浩嗣(こうじ)社長(55)。家裁庁舎の新築工事の際に納入したという。

 家裁を舞台にした「家栽の人」という漫画がある。テレビドラマにもなり、人気を博した。

 漫画の影響ですか? そう問うと、瀬戸社長いわく「そうではなくて、どうやら単純に『裁』の字を『栽』と勘違いしてしまったようです」。家裁庁舎の新築工事は1975年。「家栽の人」が漫画誌に連載されたのは87年から96年まで。確かに時期が合わない。

 納入当時の完工検査では間違いを見抜けず、96年の改修工事の点検中に、家裁職員が気づいたという。「誤記はあってはならないこと。お取り換えしますと申し出たら『施設の管理・運営上、支障はない』というご返答だったと思います」と瀬戸社長。家裁側の粋な計らいにも思える。

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 「家栽の人」は、心優しい裁判官、桑田義雄が主人公。この作品に触発されて法曹の道を志した人も少なくない。

 福岡県弁護士会で非行少年の更生支援に取り組む知名健太郎定信(ちなけんたろうさだのぶ)弁護士(43)もその一人。「家栽の人」の原作者で、長崎県佐世保市出身のフリーライター毛利甚八さん(1958~2015)と交流があった。

 毛利さんから「福岡家裁のマンホールのふたには『家栽』と書いてあるらしい」と聞き、実際に見つけた。画像を毛利さんにメールで送ると、「すごいですね」と喜んでくれたという。

 毛利さんが「栽」の字に込めた思いは、「審判は懇切を旨として和やかにこれを行う」(少年法22条)。植物をめでるように人を愛する主人公も、この条文のイメージから生まれた。

 少年犯罪を巡っては近年、厳罰化の流れが定着している。政府の法制審議会は、少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げることを検討している。

 毛利さんは3年前に亡くなる直前まで、こうした議論に懸念を示していたという。知名さんも「19、20歳は『教育』がまだ意義をもつ年代。引き下げるべきではない」と反対する。

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 福岡家裁は地裁、高裁などとともに今年8月、九州大六本松キャンパス跡地(福岡市中央区六本松)に移る。「家栽のふた」はどうなるのか。福岡家裁総務課によると、移転後に残る旧庁舎はふたも含め、財務省の所管となる。取り扱いは決まっていないという。

 「あのふたがなくなると、『家栽の人』の精神が薄れるようで寂しい」と知名さん。「どうにかして買い取ります。一つは弁護士会館に、もう一つは毛利さんの墓前に供えたい」

 現実には、漫画のように理想的な結末ばかりではない少年事件。それでも、ただ裁くのではなく、少年の可能性を信じ、育てる姿勢を持ちたい-。そんな心を持った法曹人たちが、偶然にも毛利さんの遺志が刻まれたふたを守る方策を思案している。

=2018/06/04付 西日本新聞朝刊=

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