肩書は「農業&モデル」29歳が奮闘 自然相手に苦労も…人の温かさが支えに 奥園淑子さん

西日本新聞

こだわり食材を扱ったイベントで、奥園さんのアスパラを使った料理が並んだ 拡大

こだわり食材を扱ったイベントで、奥園さんのアスパラを使った料理が並んだ

アスパラの親木の消毒を終えた奥園さん。「地味よりはいいかな」と選んだカラフルな農作業着で モデルとしても活動する=瀧川正樹さん提供

 「ビニールハウスは遠慮してください。わずかな傷が入るだけでアスパラガスが駄目になってしまうので」。ハウスで作業風景の撮影をお願いするとピシャリと断られた。傷が入るとそこから曲がってしまうため、肥料をまくときでさえ茎などに当たらないよう注意を払うという。アスパラにかける意気込みが伝わってくる。

 吉野ケ里遺跡に近い佐賀県神埼市の田園に奥園淑子(よしこ)さん(29)家族の農園「よしこちゃんの畑」はある。ハウスは7棟。うち2棟を今年から1人で担当する。独立への布石だ。「日焼けも気にせず、がっつりやり始めて」4年目に入った。

 日焼けを気にしていたのには理由がある。モデルが本業だったからだ。

   ◇    ◇

 福祉系大学を卒業後、障害者の自立支援施設で働いた。ただ、挑戦したいと心に引っ掛かっていたことがあった。

 身長168センチ。背が高いことがコンプレックスだった。「プラスに変えたい」と思い切って福岡市のモデル事務所に応募、オーディションを経て合格した。ファッションショーやCMに出演するなど2年間働いた。だけど「この仕事で食べていけるのか」という心の迷いが最後まで消せず、契約は延長しなかった。

 実家の農業により関わるようにした。手伝いは子どもの頃からしている当たり前のこと。でも感じ方が違った。入り込むと大変さばかり目についた。朝から晩まで収穫、消毒、選別、発送と忙しい両親の姿を改めて見つめた。近所の多くの農家は「継ぐもんがおらん」と漏らす。両親は何も言わない。だからこそ感じたのかもしれない。「終わらせるなんて寂しい」。まずは一歩を踏み出した。

 アスパラの収穫期は3~9月。今は夏の収穫が始まったところだ。春の収穫を終えて伸ばした親木が光合成で養分を蓄え、タケノコのように張った地下茎からアスパラが発芽する。

 インターネット通販や飲食店へのクール便、農産品直売所への卸など「よしこちゃん」ブランドの直販が7割を占める。最盛期には1日60キロを収穫、全部はけると「やった感が半端ない」。「お互い顔の見えるのが理想」と10割を目指す。

 農閑期など作業の合間にはモデル活動ができることも分かった。地元観光のCMなどに出演し、名刺の肩書は「農業&モデル」と記した。再び麦わら帽とタオルが手放せなくなった。

 「つらいことは挙げればきりがない」。農繁期はほとんど人と話さず、ひたすら農作業。「お年寄りの仕事」とのイメージも根強く、家の手伝いと見られるのも悔しい。

 自然相手の苦労もある。水害に襲われると、ほとんど規格外品になる。一方、そんなとき「うちが引き取るから」となじみの店から声が掛かり、台風が近づけば「片付けに行こうか」と気にしてくれるお得意さんもいる。食材を大切にしてくれる思いや、人の温かさにも触れられる。

 「嫌だなあ」と感じていた農業。「失敗ばかりでまだまだ」だが、若手の農家仲間と「素晴らしさを知ってほしい」と語り合うようにもなった。

   ◇    ◇

 5月中旬、福岡市博多区千代で開かれた「穴バー」に奥園さんの姿があった。こだわりの食材を使った料理を、その生産者をゲストに迎えて味わう毎月1回の会費制イベント。この日はアスパラずくめでスープ、サラダ、パスタ、パフェなどを約50人が堪能した。

 「アスパラは9割が水分。うちは活水器を通した水をやっていて、まろやかな味や甘みが出ます」。白のTシャツにストライプのミニスカート姿が涼しげだ。スライドを映しつつ会場に語り掛けた。

 自分が育てたアスパラが料理を華やかに彩り、多くの人を笑顔にしている。「こんな幸せな時間を過ごせて感謝しかないです」。食を生み出す喜びをかみしめた。

 ▼アスパラ 奥園さんによると、新鮮なアスパラは穂先が引き締まり、切り口が白っぽい。長持ちさせるには、新聞紙などにくるみ、切り口を水につけて冷蔵庫に立てて保存する。シャキシャキした食感が保たれる。お薦めは、丸ごとグリルで焼いて、塩やマヨネーズなどで味付けする食べ方という。

=2018/06/06付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ