是枝監督「犯罪でつながった家族」描いた思い カンヌ最高賞の映画「万引き家族」

西日本新聞

 世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞したばかりの「万引き家族」が今日、全国で封切られた。監督、脚本、編集を手がけた是枝裕和さん(56)は、どんな思いで「血のつながらない家族」を描いたのか。公開に先立ち、話を聞きに行った。

 「社会に対するメッセージを伝えるために映画を撮ったことはない。どんなメッセージかは受け取る側が決めること」。監督はこれまで何度もこう発言してきた。でも「思い」は必ずあるはずだ。育児放棄を扱った「誰も知らない」(2004年)をはじめ、社会から置き去りにされた人間を丹念に追い、世間の一面的な決め付けを「本当にそうか?」と問い続けてきた。今作も、一つの家族を通じて社会のひずみをあぶり出したのではないか-。そんなもっともらしい仮説をぶつけると、監督はとつとつと語り始めた。

 「家族を通して社会を見ようとした、ってのは違う。社会からこぼれ落ちた『見えない人たち』をきちんと可視化しようとした」

 「万引き家族」は、年金を当てにしておばあちゃんの家に転がり込み、万引をしながら暮らす一家の話。彼らは血縁ではなく、犯罪でつながった家族。表面上は犯罪者集団だが、そこには子煩悩な親と子のありふれた日常がある。

 「家族の幸せのかたちは多様な方がいいに決まってる。どんなかたちであれ、同じような条件で子育てができるようにするのが行政の役割。それなのに家族はこうあるべきとか、やっぱり母親がいいとか、いつの時代なんだと思うけど、そんな告発のために映画は作らない。(万引き家族は)確かにひどいやつらかもしれない。でもみんな今、その先を考えなくなってきている。僕がやるのは、あの家族をきちんと描くこと。じゃないと社会は見えてこないから」

 父親の治(リリー・フランキー)は息子に、まるでサッカーを教えるように、万引のこつを伝授する。

 「治を見てると、生活に困って万引してるわけじゃない。あの父親はそれしか教えられないし、教えることが彼にとって父親である証明なんだよね」

 「見てると」とは随分、傍観者のような言い方だ。でも話を聞くうちに、その意図が見えてきた。
 映画の終盤、母親の信代(安藤サクラ)が警察官から追及される場面がある。その撮影で監督は、信代のせりふを決めないままカメラを回したという。そこに映ったのは演技ではなく、信代自身からあふれた言葉。ドキュメンタリーのようだった。

 「撮影現場で発見したものが一番おもしろい。自分の頭の中で見えているものって、たかが知れててつまんない。自分が全てコントロールしたものではない、むしろそういう中に映画の豊かさとか、僕が言葉にできなかったメッセージが込められちゃったりする」

 監督は映画を「作る」というより「できていくのを見守っている」。そして見た人が自分なりのメッセージを見つけることも、映画の一部なのではないか。そんな感想を漏らすと、監督は「そう。見た人も含めて映画の完成。見る人の想像力を信じて作っている」と初めて首を縦に振った。

 やがて治や信代の犯罪が表面化すると、彼らは社会から断罪され、一家は散り散りになっていく。見る人の心は締め付けられる。

 「でもね、単純に共感できるようには作ってないつもりなんですよ。だって、彼らを引き裂いているのは私たち(社会)なんだもん。意地悪でしょ。へそ曲がりなんですよ、僕は」

=2018/06/08付 西日本新聞朝刊=

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