<62>障害児に教えられて

西日本新聞

●バルセロナ五輪女子マラソン日本代表 小鴨 由水さん

 2013年の「海の中道海浜公園リレーマラソン」に、私が教える「かものこクラブ」が出場しました。10人の知的障害児・者がたすきをつなぎ、42・195キロを走りきるのです。1周2キロのコースを1人が2回ずつ担当し、最後は全員で0・195キロを走ってゴールする計画を立てました。

 4時間のタイム制限があるため、途中でコースを外れないよう、1回目は全員に伴走者を付けました。すると、2回目はこちらが指示もしないのに、子どもたちが自発的に順番を待ち、たすきを受け渡していくのです。もともとは順番を待つことさえ苦手な子どもたちです。何という成長ぶりでしょうか。

 最後は全員で万歳して3時間38分台でゴール。「小鴨さん、ありがとう」と涙ぐむ保護者もいて、さすがの私もうるっときました。

 こうやってかものこたちは、たくましくなっていきました。中でも、めざましく伸びたのが福沢涼真君。自閉症で、あまり言葉は出ませんが、いつもにこにこ顔の好青年です。10年に私の伴走で3キロレースを走ったのがきっかけで、かものこの一員となりました。

 彼はとにかく走ることが大好き。めきめきとタイムを縮め、走れる距離を伸ばしていきました。そして、16年。20歳になり筋肉もたくましくなった彼に、私はこう持ち掛けます。

 「フルマラソンを走ってみない」

 もちろん、彼の実力なら走れるという私なりの計算があってのことですが、親御さんも「本人の夢を実現させたい」とのこと。10月の「筑後川マラソン」のフルの部にエントリー。前日の雨で足元が悪い中、見事に完走を果たしました。

 さらには、福岡マラソンでも16、17年と2年続けて完走。いずれもゲストランナーだった私は、中間点あたりで彼を待ち受け、残りを一緒に走ってゴールしました。彼は伴走中、「足が痛い」とか「トイレに行きたい」とか泣き言を言いますが、レースを投げ出すことだけは絶対にしません。偉いなあと思います。

 私は教えているつもりで、かものこたちに教えられてばかりです。結果にこだわらず好きだから走る‐。彼らはいつも、私を初心に立ち戻らせます。

 脚に覚えのある方は、ぜひ彼らの伴走をしてあげてください。難しく考えず、まずは体験を。最初は少し面食らいますが、だんだんと慣れますよ。そして、大切な何かが見えてきます。

=2018/06/15付 西日本新聞朝刊=

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