【米朝首脳会談】 姜 尚中さん

西日本新聞

◆大きな意義、日朝道筋を

 鳴り物入りの政治ショーなのか、それとも米朝対立のエンドゲーム(大詰め)の始まりなのか。

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長による歴史的な米朝首脳会談は、決裂や破綻もなく、無事終了した。しかし、トランプ大統領をやり玉に挙げてきた内外のメディアからは、早速、共同声明の中身が具体性を欠き、非核化の検証とその手順や方法、期限について明記されていない、と批判が相次いでいる。

 また、国内メディアでは、共同声明には日本を射程に収める中短距離ミサイルの廃棄が明示されておらず、拉致問題についても直接的な言及がなく期待外れであったという評価もあるようだ。

 ならば、首脳会談はメディア・イベント的な政治ショーにすぎなかったのであろうか。決してそうではない。何よりも、国際法上は戦争状態にある米朝間でトップ同士の直接的な会談が実現したということ、そのことに大きな意義があるからだ。

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 朝鮮戦争の休戦協定締結から65年。この間、米朝のトップ同士の首脳会談など望むべくもなく、両国間には敵対的な不信感だけが残り、昨年は第2次朝鮮戦争の危機すら取りざたされていた。

 首脳会談は、とにもかくにも戦争ではなく、平和的な手段による問題解決の道筋、その大きな枠組みと進むべき方向性を両首脳が共同声明という形で相互に承認し、署名をしたことに意味がある。

 確かに、これまでの北朝鮮の度重なる合意違反を振り返れば、北朝鮮が「虎の子」の核とミサイルを放棄することなどありえないという懐疑論は根強い。

 しかし、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」に対応して「完全かつ検証可能で不可逆的な(体制)保証(CVIG)」が実現されれば、北朝鮮にとって核やミサイルの戦略的な意義は魅力のあるものではなくなるはずだ。制裁を解除し、経済的な立て直しを実現する上でも、核とミサイルは、米国と対等な立場で交渉する手段ではあっても、それ自体が目的ではないはずだ。

 そのあたりの北朝鮮の真意について確かな感触を得たからこそ、米国は北朝鮮に体制の保証を確約し、「新たな関係」構築に言及するとともに、両国の正常化、国交樹立について示唆したと思われる。

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 米朝首脳会談の特色は、70年近くに及ぶ確執の歴史に終止符を打ち、朝鮮半島の非核化を進め、冷戦を終わらせ、新たな北東アジアの一ページを開いていくためのプロセスが始まったことを相互に確認し合ったことにある。首脳会談では非核化についても、その検証と不可逆性も含め、北朝鮮の体制保証と同時並行的かつ段階的に進めていくことが合意されており、この点でも極めて現実的なアプローチが採用されていると言える。

 このように見てくれば、米朝の合意文書は、朝鮮半島の完全な非核化を目指し、朝鮮戦争を終結させ、平和協定の締結を通じて恒久的な平和体制を構築すると謳(うた)った板門店宣言を、敵対してきた米朝間で改めて確認するとともに、それをさらに朝鮮半島を含む北東アジア地域の新たな秩序構築へと繋(つな)げていこうとする共同宣言にほかならない。

 拉致問題を抱える日本にとって必要なことは、こうした朝鮮半島を含む北東アジア地域の新たな平和体制の構築に向けて、日本が今後どのように積極的にコミットしていけばいいのか、その大きな図柄を描き、日朝2国間の懸案解決の道筋を探ることである。

 問われているのは、日本の外交と安全保障の構想力である。

 【略歴】1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長など歴任。4月から鎮西学院院長。専攻は政治学、政治思想史。著書に「漱石のことば」など。

=2018/06/18付 西日本新聞朝刊=

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