アイドルに“ガチ恋” 接触繰り返し欲求過剰に 距離感狂わせる「禁断の商法」も

西日本新聞

出会いを求める人たち<5>

 ガチ恋とは、真剣(ガチンコ)な恋愛感情を抱く様を指す。「会いに行けるアイドル」が台頭した2000年代から、ファンの間で使われるようになった。

 山口県下関市のアキラさん(41)=仮名=も週末は欠かさず、福岡を拠点とするグループの交流会に駆けつける。「自分の人生に限界が見えるからこそ、夢に向かって駆け上がる姿を応援するのが喜びなんです」

 高齢の父親と2人で暮らす。気弱な性格で、昨今もてはやされるイケメンには見えないし、リアルな出会いは諦めている。清掃の仕事で手にする月収18万円から8万円を推しメン(一押しのメンバー)に注ぐ。

 4年前までは声優にガチ恋していた。活動の中心が東京で頻繁に通えない。地元のアイドルだといつでもそばに行けて、会えない日々も落ち着いて過ごせる。

 趣味の合うファン仲間もできた。「幸い、独身ばかり」で、肩身の狭い世間とは違う価値観が心地よい。「おかげで人生を焦らなくなった」。恋を通り越し、家族愛のような気持ちで見守っているという。

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 ガチ恋をこじらせて迷惑行為に走ると、ファンの間で「厄介」と呼ばれる。

 「人生をささげるからマジで嫁になって」「福岡に引っ越したら一緒に住んでくれ」。このグループに属するチカさん(19)=仮名=は今年5月、ツイッターのメッセージに背筋を凍らせた。家族の隠し撮り画像まで添付されていた。

 運営側は福岡県警に相談し、関東に住む35歳の無職の男を事務所に呼んだ。男は念書で「近づかない」と約束した一方、立ち会った警察官の前で「グループを卒業したら関係ないですよね」と聞いてきたという。

 ストーカー被害などの相談に応じるNPO法人ヒューマニティ(東京)の小早川明子代表は「接触を繰り返すことで、ファンに潜む異性への性的欲求を過剰にさせている」と指摘する。

 実際、九州では唇と唇を数センチまで近づけられる交流会もある。4月には大分県のファンが、握手や会話をするのに必要な有料券を大量に偽造する事件も発生した。小早川さんいわく「禁断の商法」が、時として人の距離感を狂わせる。

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 15年度1550億円、16年度1870億円、昨年度2100億円-。市場調査を手掛ける矢野経済研究所(東京)によると、会いに行けるアイドルの市場規模は拡大傾向にあるという。ファン1人当たりの出費が多い効率的なビジネスモデルが確立されている。

 「地方都市にいながら音楽で飯が食えるとは、夢にも思わなかった」。九州で芸能事務所に関わる男性は、AKB48をプロデュースする秋元康さんを「神のような存在」とあがめる。

 アキラさんも交流会では1分500円の会話券を何枚も購入する。推しメンに「あなたがいないと駄目なの」とほほえまれた瞬間、人生が色彩を帯びる。出会いの価値はお金だけでは測れないと信じている。

●連載で伝えたいこと

 出会い系サイトや専用アプリ、SNS…。インターネットの普及で出会いの間口が広がっている。半面、見えない世界だけに危険も潜む。

 神奈川県座間市で昨年10月、9人の切断遺体が見つかった。今年2月には大阪市の民泊で女性の遺体が見つかり、米国人の男が傷害致死罪などで起訴された。いずれも被害者と加害者はSNSで通じていた。

 子どもたちも巻き込まれている。警察庁によると2017年、アプリやSNSを介して買春などの被害に遭った児童生徒は1813人に上り、5年連続で最多を更新した。

 もちろん健全な出会いもたくさんある。婚活市場は盛り上がり、新ビジネスも続々と登場している。光と影、灰色の世界。この連載では「出会い」をキーワードに時代の今を切り取る。

=2018/06/21 西日本新聞=

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