貿易戦争 制裁と報復の連鎖を断て

西日本新聞

 米トランプ政権の一方的な貿易制限措置が、世界中に紛争の火種をまき散らしている。

 安全保障を名目にした鉄鋼・アルミニウムの輸入制限で、同盟国の欧州連合(EU)が対抗措置の発動に踏み切った。

 7月6日からは知的財産権侵害を理由に中国製品に対する制裁関税も発動する構えで、中国は制裁が発動されれば直ちに報復関税を実施するとしている。

 米国の一方的輸入制限はさらに自動車への適用なども検討中でエスカレートするばかりだ。

 貿易秩序のかく乱は既に世界経済へ悪影響を及ぼしている。いずれ大きなつけとして米国にも跳ね返る。既にその兆候も出始めた。制裁と報復の不毛な連鎖を一刻も早く断つべきだ。

 通商面でのトランプ大統領の常とう手段は、国内産業の保護と貿易赤字解消を理由に頭ごなしの課税や制裁を振りかざし、相手国に米国に有利なディール(取引)を迫るものだ。

 ところがディールは必ずしも思惑通りに運ばず、次々に打ち出す強硬措置を実際に発動せざるを得ない状況も招いている。その結果、各国も不利益の相殺のため、対抗措置を取らざるを得ない。実に愚かなことだ。

 EUは先週、鉄鋼・アルミの輸入制限に対し、バーボンウイスキーやハーレーダビッドソンの二輪車など代表的な米国製品に報復関税を実施し、「米国が撤回すれば、われわれも措置を撤回する」と方針転換を求めている。また、足元の米国産業界からもトランプ政権の強硬策には批判の声も上がり、ハーレーダビッドソンは関税負担を避けるため、生産の一部を米国から国外に移転すると発表した。

 トランプ政権の保護主義が早くも裏目に出た格好だ。貿易戦争に勝者はいないという過去の教訓にまだ気付かないのか。

 こうした状況で求められるのは世界貿易機関(WTO)の立て直しだ。鉄鋼輸入制限を巡っては、既に中国やEU、カナダなど6カ国・地域がWTOへの提訴手続きを開始している。

 だがWTOの紛争解決機能の不全は深刻だ。紛争処理で最終審に当たる上級委員会の委員選考に米国が反発し、欠員が長引いている。本来7人の委員は4人となり、今年9月には任期切れで3人に減る可能性もある。

 WTOは戦後経済秩序の柱の一つだ。世界の通商交渉がWTOの多角的貿易交渉から、2国間や広域的な自由貿易協定にシフトしているとはいえ、WTOの形骸化は看過できない。

 紛争解決機能を強化し、各協定の調整役として存在感を発揮する工夫が必要だ。公正で自由な貿易こそ世界の繁栄と平和の礎であることを再認識したい。

=2018/06/27付 西日本新聞朝刊=

PR

社説 アクセスランキング

PR

注目のテーマ