養殖ノリ「海の恵み」にこだわり 鹿児島・出水の島中さん 酸処理せず、おいしさ追求

西日本新聞

ノリ養殖にかける思いを語る島中良夫さん、さとよさん夫妻 拡大

ノリ養殖にかける思いを語る島中良夫さん、さとよさん夫妻

島中さんが養殖したアサクサノリの板のり 胞子を付着させた網で成長したノリ(2007年、鹿児島県出水市)=鹿児島県水産技術開発センター提供

 パリッとした食感と磯の香りが口いっぱいに広がるノリ。国内の生産量78億枚(2016年)という身近な食材は、うま味となるアミノ酸をはじめビタミンやミネラルが豊富な健康食でもある。「海の恵み」を届けてくれる養殖ノリ漁師の流儀を教わった。

 「今年もだめだったね」。そんな言葉を2人で何度交わしただろう。今や幻の品種となった「アサクサノリ」の養殖。ツルの越冬地、鹿児島県出水市の漁師島中良夫さん(64)、さとよさん(66)夫妻は、挑戦23年目でやっと成功した時のことを思い出す。「最高の味ですねと声を掛けられて、感謝とうれしさで心が震えました」。込み上げる涙をこらえ切れなかった。

 養殖ノリは1960年代以降、スサビノリがアサクサノリに取って代わり主流になった。強い繁殖力と生育の早さから、あっという間に広がり、養殖ノリの99%を占める。生産量が激減したアサクサノリは絶滅危惧種に指定されている。

 「アサクサは香り、味ともに素晴らしく、のみ込んだ後も甘みが残る」。ノリ漁師2代目の良夫さんは父親が手掛けていた「出水アサクサ野口種」という在来種の味を忘れられず、その復活と地元漁業の活性化を願う仲間と動きだした。

 ところが何年やってもうまくいかない。「最初は何十人もいたけど少しずつ減って、最後は1人だけに」

 ノリ養殖は遠浅の海に立てた支柱に、胞子を付着させた網を張る。網は干満によって海水面から出たり沈んだりし、そうしてノリは育っていく。

 試行錯誤を重ねた。潮の流れの速い所、河口の養分の多い所など養殖場所も考えた。だが、どうしても摘み取れる大きさにまで成長しなかった。

 「今年で最後じゃ。もうせんど(しないぞ)」。2008年秋、捨て身でそれまでと逆の手法を取った。詳しくは「企業秘密」だが、これが功を奏した。年を越し、網に垂れるノリに目を見張った。「アサクサに違いない」と確信した。

 09年2月、昔ながらのノリの手すきを体験するイベントで、そのノリを使った。参加者が手ですいた板のりを半日、天日に干し、焼いた。口に含むと「最高の味」とみんなが声をそろえ、笑顔になった。

   ◇   ◇

 生産量全国1位の佐賀、3位福岡、4位熊本と有明海周辺の九州3県は全国的な名産地。鹿児島の生産量は3県の0・1%で、出水の漁師8人の水揚げにすぎない。それでも島中さんは「うちのノリは日本一」と言ってはばからない。

 おいしさのために手を尽くす。酸処理をしないこだわりもその一つだ。酸処理とは90年代に普及した病害予防のための技術。主にクエン酸の希釈液に、成長前のノリ網を5分ほど漬けて、病原菌を駆除する。生産効率は大幅にアップ、色つやも良くなるため、ほとんどの養殖地が導入した。

 ただ使用後の酸の処理や海底への蓄積、結果として生じる過密な養殖状況など環境への影響を指摘する専門家もいる。

 「子や孫に食べさせられるかを考えた。安心安全のため」。島中さんの思いは、恵みをもたらす自然の循環から外れることの「心地悪さ」とも受け取れた。

 ノリ網を高く張り、干潮時に太陽の光を十分当てる。海につかる時間が短くなる分、成長は遅いけれど、じっくり育てたいと思う。

   ◇   ◇

 島中さんは今月中旬、福岡市西区の九州大伊都キャンパスを訪れた。学生らの企画対談イベント「おいしいはなし」に登壇し、福岡県宗像市の有機農家、竹松有樹さん(44)と語り合った。「山も海もおいしい物はあせらずに作る点で共通。急ぐことは不自然」。そんな思いを共有した。理由は単純明快。「だっておいしい物はニコッとなる。心豊かになるでしょ」

 ノリの収穫は12月から2月までの計5~7回。島中さんはスサビノリも養殖する。間もなく網を洗う作業が始まる。9月には支柱を建て、10月下旬には種付けが始まる。「いい芽を出せよ」と語り掛けながら、毎年気合を入れる。

 「もっとおいしいノリを作ろう。今年こそ」

=2018/06/27付 西日本新聞朝刊=

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