「とにかく前を向く」 雨の中で“祈りと誓い” 九州豪雨1年

西日本新聞

 手作りの献花台、友にささげた歌声…。九州豪雨から1年の5日、今なお爪痕が残る福岡県内の被災地では、住民たちがそれぞれの思いを胸に節目の日を迎えた。多くのものが失われたあの日を思い出させる雨の中、「とにかく前を向く」と誓った。

「今も言葉が出てこない」

 小川稜人(すみと)さん(76)、千鶴子さん(74)夫妻と藤本千代香さん(64)=年齢はいずれも当時=が犠牲になった朝倉市杷木松末(ますえ)の小河内集落。基礎だけが残る公民館跡で午前9時から追悼式が開かれた。喪服姿や雨がっぱに長靴姿の遺族ら約30人が参列。竹筒を使った手作りの台に1人ずつ献花した。「多くの笑顔と笑い声が一日も早く戻りますように」とのメッセージを添えた花束も供えられた。

 集落では、砂防ダムの建設計画が見直しになり、復興の青写真は示されていない。1年前まで18世帯が暮らしていたが、仮設住宅に移り、畑仕事などで集落を行き来するのは2、3軒という。市内のみなし仮設に暮らす小川清子さん(60)は「今も言葉が出てこない。家なんだけど家じゃないみたいな仮設での生活に追われる毎日です」。

「雨が降ると思い出す」

 5人が亡くなった朝倉市杷木松末の石詰集落でも、犠牲者の自宅跡が見える選果場内で追悼式が開かれ、約60人が参加した。

 森山恒彦さん(62)=同市=は、兄の小嶋茂則さん=当時(70)、小嶋さんの妻ユキエさん=同(70)、母ミツ子さん=同(92)=を失った。「雨が降ると思い出す。家族に何もできんかったけど、生きることの重大さを教わった。とにかく前を向いて進まないと」と涙を拭い、式の前には流された家の跡地を訪れた。

 式では5人の写真が並べられ、森山さんが被災前の集落を撮影していた映像を流した。当たり前だった風景に、会場は笑顔と涙が入り交じった。茂則さんの生前の姿が映ると「わぁ」と歓声が上がった。

「思い出の曲、届いて……」

 東峰村でも村保健福祉センターいずみ館で、村主催の追悼式典が営まれた。3人の犠牲者のうち、熊谷みな子さん=当時(66)=が所属していた宝珠山女声合唱団の9人が「野に咲く花のように」などを披露した。指揮をした酒井マスミさん(74)は「一緒に歌った思い出の曲。みな子さんに届いてくれれば」と願っていた。

=2018/07/05付 西日本新聞夕刊=

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