心の傷に耳傾け、村民に寄り添う 東峰村唯一の常勤医師・江島有美香さん

西日本新聞

 九州豪雨で大きな被害を受けた福岡県東峰村で、村立診療所の所長を務める医師江島有美香さん(29)が被災の傷を抱える地域の人たちを支えている。「雨が降ると怖い」「眠れない」といった心身の不調を訴える声は当初より落ち着いてきたが、被災1年の節目にぶり返す懸念もある。「地域の相談役として一人一人とじっくり向き合っていきたい」。村でただ1人の常勤医師として、村民に寄り添い続ける。

着任3カ月後、豪雨が襲う

 「マサエさん、入るよー」。看護師が声を掛け、一緒に庭から部屋に上がり込む。梶原マサエさん(89)宅への月1回の往診日。江島さんは、耳元で話し掛けながら血圧測定を始めた。「女医さんだからなんでも聞ける。先生がいなくなったら困るねぇ」。梶原さんが笑顔を見せた。

 梶原さんは脳卒中の後遺症で片脚がまひしている。自宅は昨年の豪雨で床上浸水し、避難所に移ったが、間もなく血圧の持病が悪化し約2カ月入院した。「避難時の疲労や共同生活のストレスが原因では」と江島さんは話す。

 同県太宰府市出身の江島さんは、地域医療の担い手を育成する自治医科大(栃木県)を卒業後、研修医を経て昨春、診療所に着任した。その3カ月後、豪雨が襲った。

 道路が寸断され、普段は周辺の病院に通っていた人も詰め掛けて7月の患者数は前年の2倍に膨れた。待合室のソファを寝床に2週間泊まり込み、水が出ない間は制汗シートで体を拭いた。近所の人が届けてくれたトマトやキュウリが「この上なくうれしかった」。昨年度の来院数は前年度より907人多い3163人に達した。

「急に涙が出る」「雨の音が怖い」

 「ふとした時に急に涙が出る」「雨の音が怖い」。江島さんは普段の診療とは別に、そうした心の悩みを訴える相談にも無料で応じてきた。村には心療内科や精神科がない。1日数人が訪れる状態が長く続いた。「今でも診察中に不安を口にする患者さんは少なくありません」

 被災1年。江島さんの気掛かりは、こうした節目に体調を崩す人が増える「アニバーサリー(記念日)反応」だ。降雨や報道を機に当時のことがよみがえり、心身の異常が再発することをいう。村民の相談では、介護や夫婦関係など家庭の悩みにも耳を傾けるようになった。

 「今では患者さんの顔を見るだけで下の名前から家族、性格まで頭に浮かぶようになりました」。距離感が近いからこそ気付ける痛み。苦労を語ればきりはないが「頼ってもらえることがうれしい」と笑顔に充実感をにじませる。

=2018/07/05付 西日本新聞夕刊=

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