「してるふり」にご注意を

西日本新聞

 安倍晋三首相の政権運営を巡って「外交が得意」という評価をしばしば耳にする。新聞やテレビでも「不祥事で苦境の安倍首相が、得意の外交で挽回を図る」などの解説を見かける。

 共同通信社が6月中旬に実施した世論調査では「安倍政権を支持する理由」で「ほかに適当な人がいない」がトップだが、「外交に期待できる」が2位につけている。「外交が得意」のイメージは広く世間に共有されているようだ。

 外交担当記者としては、首をかしげてしまうのだ。本当に安倍首相はそれほどの外交上手なのか。

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 安倍氏が首相に返り咲いてから5年半。第1次政権時代も合わせれば、首相在任期間は戦後3位だ。

 外交問題は一朝一夕に動かせないとはいえ、すでに十分な時間を与えられたと考えるべきだろう。

 しかし安倍首相自身が最大の課題に掲げる「拉致問題の解決」は現時点まで全く進んでいない。残念なことに、これが事実である。

 トランプ米大統領と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の首脳会談で、楽観はできないにしろ、北朝鮮が非核化へ動く可能性が出てきた。同時に拉致問題解決のチャンスも訪れている。ただし、米朝会談実現の功労者は韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領であり、安倍首相ではない。

 もう一つの日本外交の大きな課題は北方領土問題だ。安倍首相はロシアのプーチン大統領とすでに20回以上も会談を重ねているが、経済協力を求められるばかりで、領土問題解決や平和条約締結への道筋は、ほとんど見えてこない。

 在任の長さを考えれば、拉致問題や北方領土で一定の成果を上げない限り「外交が得意」などの評価はできないのではないか。アジア外交も停滞している。目立った実績といえるのは、オバマ米大統領(当時)の広島訪問ぐらいだろう。

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 ではなぜ「外交が得意」のイメージが広がるのか。私はそこに興味を持つ。

 会社勤めを長くしていると「仕事をしているふりがうまい人」がいるのに気付くものだ。読者の皆さん、今、うなずいたでしょ。

 安倍首相もこれと同じで「外交で実績を上げてるふり」がうまいだけではないのか、というのが、失礼ながら私の仮説である。

 「仕事をしているふり」がうまい人には、いくつかの特徴がある。「得意先の誰々と会った」など途中経過をやたら報告する。小さな成果をアピールする(大きな成果は上がらない)。誰かが大きな仕事をすると「実は自分も関わっていた」と便乗する-などなど。

 安倍首相は国会答弁で、北朝鮮が米朝会談に応じた理由について「日米韓が最大限の圧力をかけた成果」と強調している。間違ってはいないだろうが、このうち日本の圧力がどれだけ効果があったかは不明だ。

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 会社という世界では、人事担当者の目が節穴なのか、意外と「仕事をしているふりがうまい人」が高く評価されてあぜんとすることがある。読者の皆さん、また、うなずきましたね。

 ただ、これが政権となると、査定するのは人事部ではない。われわれ国民である。間違った査定をしないよう、イメージに惑わされず、事実を吟味して正確に評価する目を持ちたい。

 (論説副委員長)

=2018/07/22付 西日本新聞朝刊=

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