【地方公務員最前線 変わる仕事と役割】<5>出会いが育んだ新境地

西日本新聞

 5月末、東京・虎ノ門。週末の閑散とした官庁街近くのホールに、私服姿の公務員約500人が集まった。中央官僚と地方公務員をつなぐ交流会「よんなな会」。懇親の場で参加者に振る舞おうと、ご当地の地酒や焼酎を手にした人もいる。

 総務省のキャリア官僚で、神奈川県に出向中の脇雅昭(36)が主宰する。会員制交流サイト(SNS)の呼び掛けで全国から集う数百人が年2回、地方自治を語り合い、人脈を広げ、その刺激を持ち帰る。

 脇は宮崎県都城市出身。交流会を思い立ったのは、熊本県に2年間出向し、総務省に戻った2010年だった。

 中央省庁には、全国から多くの自治体職員が出向している。地方ではできない経験を積ませようと送り込まれた有望株たちはしかし、疲弊して机に突っ伏し、庁舎に閉じこもっていた。「せっかくの東京勤務。彼らがつながりを広げる場をつくれないか」と考えた。

 衆院議員の小泉進次郎を招いたり、若手官僚に政策の研究発表をしてもらったり。仲間と出会い、つながる機会に自治体職員の輪が広がった。常連参加者で、鹿児島県日置市から観光庁に出向中の東田隆之(27)は「この場から始まった仕事もある」という。

 この日、マイクを握った脇は、会場を埋める人波に声を張り上げた。「地方公務員の志や能力が1%上がるだけで、世の中はむちゃくちゃ良くなる。その可能性の固まりが、僕らなんじゃないか」

    ◇    ◇

 「翔平、農業機械が切り替え時期っちゃけど、どげんしたらよか」。棚田や段々畑が広がる宮崎県高千穂町。NPO法人代表理事の佐藤翔平(27)は、山あいの集落を訪ねては農家の経営相談などに乗る。佐藤も「よんなな会」で刺激を受けた一人。今年3月まで町職員だった。

 高校卒業後、大阪や東京での料理人修業を経て帰郷。町史を調べ、山間地の農林業など先人の苦労を知った。「てこ入れしたら、もっといい方向に行く」。14年度に町役場に入り、農業振興担当になった。

 15年、高千穂郷・椎葉山地域が世界農業遺産になり、そのPRにNPOを設立。高千穂牛や焼き畑のソバなど旬の食材と生産者のインタビューを一緒に届ける季刊誌「高千穂郷食べる通信」を知人と創刊した。

 「通信」は収穫物を売り込む農家が名刺代わりに使うほど評判を呼んだ。だが軌道に乗るほどに、自分の活動が「公か民間か」分からなくなった。

 「1%の向上」。佐藤の頭に浮かんだのは、「よんなな会」で脇が繰り返した言葉だった。たどり着いた結論は「自分は地域活動のプレーヤーになった方が、町のためになる」。4年勤めた役所を辞めた。

 東京で、地方で。志ある仲間と出会った自治体職員が、地域に新境地を切り開いていく。

 在職中に5カ所で集落営農を普及させるなどした佐藤の実績に、農家の信頼は厚い。町は退職した佐藤に、農業支援の外部顧問を頼んだ。つながりは、そのままだ。 (敬称略)

    *   *

 地方公務員のあり方に新たな潮流が起きている。時代が求める仕事や役割は変化し、人員削減や働き方改革の波も押し寄せる。来春の統一地方選に向け、私たちの暮らしや地域を支える自治体の現場から報告する。

=2018/07/22付 西日本新聞朝刊=

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ