【地方公務員最前線 変わる仕事と役割】<6完>記者ノート 住民に寄り添い、考える

西日本新聞

 地方公務員のあり方に新たな潮流が起きている。時代が求める仕事や役割は変化し、人員削減や働き方改革の波も押し寄せる。来春の統一地方選に向け、私たちの暮らしや地域を支える自治体の現場から報告する。

 連載取材をスタートさせた5月下旬、宮崎県高千穂町の新人職員、甲斐華穂さん(18)に会った。

 甲斐さんの高校在学中、連載5回目に登場した同町の佐藤翔平さん(27)らが世界農業遺産のPRに町内を駆け回っていた。その活動に触れ、心を打たれた甲斐さんは農家を訪ね、農業の現状を学ぶようになった。

 古里への関心と愛着が深まった。卒業後に上京しようと考えていたが、そんな思いはどこかに消えた。今春、町役場に入り、農林振興を担当している。

 「仕事が楽しい。子どもたちに古里の農業の素晴らしさを伝え、町をもっと良くしていく」。町職員としてスタートを切った甲斐さんの力強い宣言を聞いた。

    ◇    ◇

 「人の役に立ちたい」「古里を元気にしたい」。甲斐さんのように多くの自治体職員が高い志を抱き、役所の世界に入ったことだろう。

 ただ、自治体の現場は厳しさを増している。

 九州のある自治体の女性職員は入庁2年目の昨年、眠れなくなった。住民に対応する窓口担当で出ずっぱりのうえ、閉庁後は同僚に仕事を教え、自分の仕事が回らなくなった。

 精神的に追い込まれ、心療内科を受診した。「病気での長期休暇の取り方を教えてほしい」と相談を受けた職員組合が「悲鳴」をキャッチしたという。

 押し寄せる人員削減と「働き方改革」の波。まるで赤字企業のような業務効率化を迫られる現場もある。

 この自治体では、窓口の住民対応の時間をいかに短くするかという研修があった。閉庁後、職員一人一人が実演し「あなたはこういうところが長い」などと指導されたという。

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 それでも悲観する必要はない。時代が変化し、前例踏襲の仕事が通用しなくなればなるほど、自由な発想でチャレンジできるからだ。

 九州大大学院の嶋田暁文教授(行政学)は、求められる地方公務員像について「住民に寄り添い、逃げずに、できる方法を考える。覚悟を持って地域のために自分事として住民と接すれば、住民も信頼する」と話す。

 連載では、それを地でいく「スーパー公務員」を取り上げた。その姿は、変わらぬ自治体職員のやりがいと同時に、地域の新たな可能性を示すものでもあったと思う。

 来春の統一地方選まで約9カ月。各地の首長選や議員選で、多くの候補者が政策を競うだろう。だがリーダーがどんなビジョンを掲げても、職員の士気が低ければ実現は難しい。自治体職員が生き生きと仕事ができているかは、実は私たちの暮らしに大きく関わる。

 時代と向き合い、住民に寄り添う地方公務員がいる。私たちも地域の未来を考え、価値ある選択に備えたい。 =おわり

=2018/07/23付 西日本新聞朝刊=

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