僕は目で音を聴く(14) 新入社員に気づかされたこと

 会社に新入社員が入ってきました。同じ聴覚障害がある人です。言葉を覚えた後に聞こえが不自由になった中途失聴だったため、手話はできないということでした。

 さっそく私が幹事を務めて歓迎会を開いた際、最初の30分間は、私も同僚もゆっくりとした口話や筆談で「質問攻め」にしていましたが、だんだん手話が使える人だけの会話になっていました。気がつくと彼女は黙ったまま、下を向いていました。

 その姿を見て、ハッとさせられました。私が聴者(聞こえる人)だけの飲み会に参加した時、聴者が口話で話を始めると、内容に追い付かず分からなくなって私自身が下を向いていました。彼女の様子はまったく同じでした。自分がつらい思いをしたはずなのに、なぜそうしてしまったのか…。自分を責め、反省しました。すぐに皆に伝えると、誰もが気がついて、話し方を改めました。

 後日、「楽しかったです。ありがとうございました」とメールが来て、本当にホッとしました。また同時に自分をいろいろ見つめ直し、なぜあのように“疎外”してしまったのか、考えてみました。

 飲み会の場は誰もが、自分が日ごろため込んでいるストレスを発散できる機会です。なのでそんな時は、普段使い慣れている言語を使うことになります。それが私の場合は手話でした。

 自分は何も悪気がないのに、ある人にしてみれば「配慮をしてくれない」ということになるのです。お酒の怖いところはこういうところだと、あらためて思います。耳が聞こえない私は今まで「被害者側」として常に不満をかかえがちでしたが、知らず知らずのうちに「加害者側」になることもあるのだと自覚することができました。

 裏返せば、障害者に大変理解がある人でも、やむを得ない状況で配慮が至らなくなる面が、現実の社会ではあるということです。お互いにその“弱さ”を認め合えば、わだかまりも壁もない世の中に一歩近づく気がします。
 (サラリーマン兼漫画家、福岡県久留米市)

 ◆プロフィール 本名瀧本大介、ペンネームが平本龍之介。1980年東京都生まれ。2008年から福岡県久留米市在住。漫画はブログ=https://note.mu/hao2002a/=でも公開中。

※平本龍之介さんによる漫画「ひらもとの人生道」第1巻(デザインエッグ社発行)が好評発売中!

=2018/07/19付 西日本新聞朝刊=

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