カンボジア与党、投票棄権阻止に躍起 野党支持者「報復怖い」 29日に総選挙

西日本新聞

 【プノンペン浜田耕治】カンボジア下院選(総選挙)の投開票が29日に迫った。最大野党を解党に追い込み、与党の圧勝を確実にしたフン・セン首相だが、投票ボイコットの動きに神経をとがらせている。投票率を高めて国際社会に正当性をアピールしたいためだ。選択肢を奪われ、行き場をなくした民意は300万人に上る。熱気を失った首都プノンペンでは「投票に行きたくないが報復が怖い」との声も聞かれた。

 「カンボジア万歳!」。選挙戦最終日の27日朝、プノンペンの目抜き通りが与党・人民党の旗で埋まった。25万人の支持者が車やバイクに分乗し行進したのだ。参加者に水を配っていた女子学生(21)は「党はインフラを整備して国を発展させた」と興奮気味だ。

 フン・セン氏は選挙戦で、人民党こそが虐殺や強制労働で200万人もの自国民を死亡させたポル・ポト政権を倒し、自由と民主主義を取り戻したと主張した。父親と祖父をポル・ポト時代に殺された男性(49)は「(人民党のおかげで)自分の命も救われたと思う」と支持の理由を語る。

 しかし、街に熱気はない。昨年、最大野党の救国党が解党に追い込まれ、300万人に上る支持者が投票先を失ったためだ。今回の選挙には20の政党が参加。野党的立場の党もあるが、救国党に代わって「非与党の受け皿」となり得る規模や知名度はないとされる。

 国外に逃れた救国党元幹部らは「対抗勢力のない選挙は茶番だ」と投票ボイコットを呼び掛けている。客待ち中のバイクタクシー運転手ジン・ジェムさん(56)は救国党の支持者。「与党は汚職まみれ。投票は棄権したいが、レストランで働く妻は上司から『投票翌日に指が白ければクビだ』と脅された」と言う。

 カンボジアでは二重投票を防ぐため、投票後に指にインクをつけて目印にする。インクのない白い指は「救国党支持」とみなされ、嫌がらせの対象になり得るとの指摘は多い。貿易業の男性(42)は「行政や警察、税関は人民党が押さえ、監視網を張り巡らせている。商売を邪魔されたくないので投票には行くが、無効票を入れる」と語る。

 政権は「ボイコットの呼び掛けは違法だ」とけん制し、投票率アップに躍起だが、むしろ焦点は選挙後だ。カンボジアの主力産品の衣料品は輸出先の上位を欧米が占める。欧州連合(EU)はカンボジアの政治状況の改善を迫るため、関税の優遇措置を見直す制裁を検討している。

 「将来を託す政党がないのは悲しい。人民党の独裁が続けば、外国の制裁を受けて生活は苦しくなるかもしれない」。ジン・ジェムさんは空を仰いだ。

 カンボジア下院選 定数125の議員を全国25選挙区の比例代表制で選出する。任期は5年。2013年の前回選挙ではフン・セン首相の与党・人民党(68議席)が勝利したが、野党・救国党(55議席)が善戦。昨年6月の地方選でも救国党が得票率44%で躍進した。こうした結果に危機感を覚えた与党は野党勢力への抑圧を強化。救国党は昨年9月に政府転覆を企てたとしてケム・ソカ党首が逮捕され、昨年11月に解党に追い込まれた。

=2018/07/28付 西日本新聞朝刊=

PR

国際 アクセスランキング

PR

注目のテーマ