有明海見えぬ「再生」 公費387億円、排水浄化には352億円 雇用は創出なお不漁 諫干開門巡る訴訟30日判決

西日本新聞

 総事業費2530億円をかけて2008年に完了した国営諫早湾干拓事業(長崎県諫早市)は、その進行に伴いノリ不作や漁獲量減少などの「有明海異変」を表面化させた。堤防閉め切りと漁業不振との因果関係解明を望む声に対し、国は中・長期開門調査を見送る代わりに有明海再生事業として16年度までに計387億円を投入。地元に雇用を生み出す一方、再生効果は限定的と指摘される。開門判決「無効化」の公算が大きい30日の福岡高裁判決を前に、再生事業の今を追った。

 噴射する高濃度酸素水が海面を白く変えていた。

 7月下旬、諫早市小長井町の諫早湾沖には、海中酸素が不足して生物が死滅する貧酸素水塊対策のため2隻の台船が稼働していた。長崎県の再生事業の一環で、9月までの3カ月間、24時間態勢で、くみ上げた海水と噴射した酸素水をかき混ぜ、海底に戻す。小長井漁協(同市)との共同企業体(JV)で受注した地元の2社は、いずれも元タイラギ漁師が立ち上げた会社だ。受注額は1社当たり9千万円。地元漁師を優先して雇用している。

 高級二枚貝のタイラギは不漁が続き、長崎県では干拓事業着工後の1994年から休漁している。「タイラギが採れる諫早湾に戻ってほしい。そのためには有明海全体に10隻の台船が必要だ」と受注会社社長。「ようやく安定した海の環境がまた悪化するかもしれない」と、潮受け堤防排水門開門には反対している。

 再生事業が落とすカネは不漁にあえぐ漁師の生活を支えている。汚泥が堆積した海底を改善するため、毎年秋に諫早湾沿岸の漁協が行う海底耕運では、10日間で1隻あたり50万円の収入になるという。ただ、汚泥は再び堆積するため効果は限定的。参加する開門派の漁業者は「海の再生にとって意味のないことだとは分かっているんだけど」と自嘲気味に語った。

   ■    ■

 2000年冬、有明海で養殖ノリの記録的不作が起きると、漁業者からは「諫干事業が原因だ」と疑う声が強まった。国は02年に短期開門調査を実施したが、「開門で新たな漁業被害を招く恐れがある」として中・長期調査は見送り、魚介類の生息調査やノリ養殖技術の開発、漁港漁場の整備などに取り組んできた。

 効果はどうか。佐賀県の養殖ノリは持ち直し、販売枚数、販売額は15季連続で日本一が確実。一方、有明海での貝類の漁獲量は多少増えた年もあるが、昭和50年代と比べて大きく減っている。タイラギは1979年の2・9万トンから2012年には67トンに激減、回復の兆しは見えない。

 漁業者は堤防閉め切り後「潮流が遅くなって水が濁り、クルマエビが取れなくなった」(長崎県島原市)、「貧酸素で貝が死滅し、貝を食べるタコがいなくなり、カニもシャコも取れなくなった」(佐賀県太良町)などと訴える。

 長崎県が諫早湾沿岸2カ所に移植した養殖タイラギは今月、海域の塩分濃度の低下でほぼ全滅した。淡水の調整池からの大量排水が原因との声もある。生活雑排水の流入で水質が悪化する調整池の浄化のため、長崎県などは15年度までに約352億円を投じているが、水質は法律で定める基準をクリアしないままだ。

 宇野木早苗元東海大教授(海洋物理学)は「再生事業の効果は部分的で対症療法にすぎない」と話す。

 九州農政局が06年に示した諫早湾干拓事業の費用対効果は、投資に見合った支出とされる「1」を大きく下回る「0・81」。しかも、この事業費に含まれない再生事業などの費用は年々膨らんでいる。宮入興一長崎大名誉教授(財政学)は「干拓事業自体が公共事業として失敗だったことは明らかだ」と指摘している。

=2018/07/29付 西日本新聞朝刊=

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