英国のEU離脱 混乱回避へ建設的議論を

西日本新聞

 残り時間は少なくなるばかりなのに、英国政府の混乱が収まらない。

 英国の欧州連合(EU)からの離脱期限が来年3月下旬に迫る中、英国のメイ首相がEUとの交渉のたたき台となる「白書」を公表した。離脱方針の詳細をまとめたものだ。

 この白書によれば、英国はEUの単一市場や関税同盟から脱退する一方で、離脱後もEUとの自由な貿易を継続する「自由貿易圏」の創出を求める。

 英EU間で観光客やビジネス客に短期のビザなし渡航も認めるなど、EUとの緊密な関係を維持する内容だ。

 EU離脱の悪影響を抑えたい英経済界の意向を反映した「穏健離脱」路線である。離脱後に英EU間の関税や製品規格のルールなどが激変すれば、英国企業のみならず、進出企業の活動も阻害しかねない。穏健離脱は現実的な選択といえるだろう。

 これに対して、英政権内の強硬離脱派が猛反発し、ジョンソン外相ら複数の閣僚が辞任する騒ぎとなっている。強硬離脱派は経済政策の独自性を取り戻すため、EUと完全に決別するよう主張する。与党である保守党内の造反で、メイ首相の求心力は急低下している。

 一方、穏健離脱の方針を示されたEUの反応も芳しくない。

 新方針は基本的には、英国が実質的に単一市場の恩恵を受けつつも、移民問題などにつながる人の流れは独自に制限するという「いいとこ取り」である。これを認めれば、移民問題に悩む欧州の他の国々が、英国同様に離脱を目指す恐れがある。EU側の警戒感は強い。

 EUの離脱交渉責任者は、英国が提示した離脱構想について、「人・物・資本・サービス」の自由な移動を不可分とするEUの原則に触れるとして、懐疑的な姿勢を示した。

 メイ首相にとっては、足元の政権基盤がぐらつく中で、これからEUとの困難な交渉に臨まなければならないという実に危うい状況である。

 英国のEU離脱期限は来年3月だが、双方の議会で承認を得るには半年ほどかかる。事実上は今年秋までの合意が必要だ。期限は目前に迫っている。

 このまま、英国とEUが何の取り決めもないまま「無秩序離脱」を迎えれば、人や物、金融の流れが大混乱に陥り、世界経済にも悪影響を及ぼす可能性がある。そんな最悪のシナリオも現実味を帯びている。

 英政府も強硬派もEUも、原理原則を振りかざすのではなく、現実のリスクを見据えて妥協点を探るべきだ。「時計を見ながら」建設的に議論する姿勢が求められている。

=2018/07/29付 西日本新聞朝刊=

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