諫干開門「無効化」(上)「錦の御旗」揺らぐ 漁業者、司法に怒りと落胆

西日本新聞

 国営諫早湾干拓事業を巡る30日の福岡高裁判決は、開門調査を命じた2010年12月の福岡高裁確定判決を「無効」と判断した。宝の海を取り戻そうと、法廷闘争を続けてきた漁業者には、開門への「錦の御旗」を失いかねない事態だ。確定判決から7年半。落胆、憤り、疲れ…。遠い有明海再生に、海とともに生きる漁業者たちにはさまざまな思いが交錯する。

 静まりかえった法廷に裁判長の声が響く。「確定判決に基づく(開門の)強制執行は、これを許さない」。逆転判決に傍聴席の漁業者らは一様に厳しい表情を見せた。「あなたは漁業者のことを、どこまで考えているのか。一生、顔と名前は忘れない」。弁護団の隣に座った確定判決の勝訴原告の一人、平方宣清さん(65)は裁判長の顔をにらみつけた。

 判決が逆転敗訴の理由にしたのは、原告らが所属する漁協に認められる「共同漁業権」。権利は免許期限の13年8月末に消滅、これに伴い原告の開門請求権も既に失われたという理屈だ。「父の代から漁業を続けてきた。裁判所が何の権限で漁業者の権利を奪うのか」。平方さんは憤った。

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 判決後、弁護団が開いた記者会見。「びっくり仰天の判決を書いて、非常識だと思わないのか」。マイクを持つ馬奈木昭雄弁護団長の手は震えていた。開門しない国の制裁金支払い義務は15年に最高裁も認めている。「最高裁、あなたは間違った判断をしていますよ、という判断。裁判所の質はここまで低下したのか」

 確定判決は、開門を求める漁業者たちの最大のよりどころだった。ただ、複数の訴訟が乱立する状況で、ほかの司法判断はいずれも「非開門」。この日の判決が確定すれば、開門の実現はさらに遠のく。

 「この判断は絶対に長生きしない。上告し、有明海再生の実現まで闘い続ける」。馬奈木弁護団長はそう鼓舞したものの、裁判闘争の長期化によって一部の漁業者には疲労感もにじむ。

 この日、裁判所に駆け付けた原告は、わずか3人。九州に上陸した台風12号への対応や、最盛期を迎えたクラゲ漁を優先した漁業者は少なくない。「厳しい判決は今回に限ったことではない。それでも10年も頑張れば解決すると思っていた。山あり谷あり、(裁判闘争は)いつまで続くのか」。ある原告はこぼした。

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 有明海再生を求める漁協も判決を複雑な思いで受け止める。高裁は3月、開門に代わり、国の100億円基金案で解決を図る和解勧告を示していた。「われわれの願いは有明海再生をやってほしいという一つ。双方が和解できる形をつくってくれた方がよかった」。この日の判決に、佐賀市で会見した佐賀県有明海漁協の徳永重昭組合長(70)は落胆の思いをにじませた。

 原告以外の漁業者も所属する同漁協は、基金案の受け入れを表明した熊本、福岡両県の漁業者団体と、原告との間で板挟みに遭い、訴訟の結審後に、受け入れに転じた経緯がある。ところが国は和解なしには基金を創設しないことを示唆し、漁業者側も和解に応じなかった。「有明海再生はいつになるのか」。徳永組合長は危機感をあらわにした。

=2018/07/31付 西日本新聞朝刊=

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