「患者のため」医師の残業150時間超えも…過酷な勤務実態 遠い改善 14病院に労基署勧告

西日本新聞

自宅で待機する医師に検査画像を送信できるタブレット。当直の事務職員が操作する=福岡県古賀市の国立病院機構福岡東医療センター 拡大

自宅で待機する医師に検査画像を送信できるタブレット。当直の事務職員が操作する=福岡県古賀市の国立病院機構福岡東医療センター

 九州の中核病院アンケートで、回答した病院の6割が違法な残業や残業代未払いで是正勧告を受けるなど、医師の過酷な勤務実態が浮かび上がった。外来診療制限や交代制勤務導入を試みる病院もあるが、患者側へのしわ寄せも。医療の質を保ったまま、医師の働き方改革をどう進めるのか、現実は厳しい。

 福岡県久留米市の聖マリア病院は2月、労使協定の上限(月150時間)を超えて残業していた医師が複数いたとして、久留米労働基準監督署から是正勧告を受けた。そこで協定の上限を月190時間に引き上げた上で、交代制勤務の導入、手術数制限などに踏み切り、4月からは整形外科や循環器内科などの外来診療を縮小。「ぎりぎり守っている」という。

 鹿児島市立病院も2015年8月、勧告を受け、月45時間の協定を繁忙期は月150時間まで延長できるようにした。このほか、上限を月70時間から120時間に見直した病院もあった。

 厚生労働省が健康障害のリスクが高まるとする過労死ラインは月80時間。複数の病院が過労死ライン以上に協定を引き上げることで是正勧告をしのいでいる。「救急医療を担い、多くの入院患者を抱える現状の維持にはやむを得ない」(鹿児島市立病院)など、365日24時間診療に長時間労働は避けられないとする。

   ◇    ◇

 厚労省の検討会は2月末、緊急的な取り組みとして(1)労使協定の自己点検(2)他職種への業務移管(3)当直明けの勤務負担の緩和-などを提言した。九州でも改善の動きが芽生えつつある。

 国立病院機構福岡東医療センター(福岡県古賀市)は13年から夜間休日に遠隔画像診断を導入し、効果を上げている。急患でコンピューター断層撮影(CT)検査をした場合、自宅待機する画像診断医のタブレット端末に転送し、診断を仰ぐ。

 導入前は画像診断医が呼び出されるなど、時間も人手もかかっていたが、時間短縮や当直医の負担軽減につながった。1日平均15・5人(17年度)の夜間急患のうち、3~4人に活用され「なくてはならないシステム」と言う。

 長崎県の長崎大病院、国立病院機構長崎医療センター、佐世保市総合医療センターの3病院は検討会の提言を受け、合同で働き方改革を議論。今月中にも患者や家族への病状説明を平日の日中にできるよう協力を求めるポスターを共同製作する。「まずはできることから始めたい」と担当者。

   ◇    ◇

 一方、アンケートの自由記述には各病院の苦悩がにじんだ。

 「医師の労働時間が厳しく規制されれば、これまでと変わりなく医療を受けることも、提供することも困難になる」「夜間休日診療や救急医療などに多大な影響が出るのは必至」などの危機感は強い。

 地域医療を維持するため「かかりつけ医制度を推進してほしい」「(軽症者がコンビニに行くような感覚で救急医療機関を利用する)コンビニ受診の抑制を」など、患者の意識変革を望む声は、地域や規模を問わず目立った。

 医師を養成する大学病院はさらに悩みが深い。「診療以外に教育・研究を行う特性もあり、長時間労働の背景となっている。医師の偏在対策、医療と介護の連携深化など、国に早急に検討してほしい」(鹿児島大病院)、「若い医師に勤務時間を守るよう指導することが学ぶ意欲を低下させている可能性もある。医師個人のモチベーションをどう維持するか、国全体で議論する場があっていい」(長崎大病院)という声もあった。国レベルで地域医療の構造を見直す施策が求められている。

■医療の安心に影響しかねない

 森岡孝二関西大名誉教授(企業社会論)の話 長時間労働は当然と捉える風潮は医師の間で根強く、出退勤記録もずさんで残業が野放しにされてきた。医療ミスを誘い、医療の安心安全に影響を及ぼしかねないと自覚すべきだ。旧態依然とした長時間労働が医師の地方離れに拍車をかけている側面があり、悪循環に陥っている。医師の偏在解消や患者側の意識改革は別途、国レベルの取り組みが必要だ。

=2018/08/02付 西日本新聞朝刊=

PR

最新記事

PR

注目のテーマ