障害のあるわが子のため…就労施設を開設 一人の父親の挑戦

西日本新聞

「すいーつ工房ManaMana」のスタッフや利用者。溝口裕之さん(左端)は「おもてなしの心がモットーです」 拡大

「すいーつ工房ManaMana」のスタッフや利用者。溝口裕之さん(左端)は「おもてなしの心がモットーです」

スタッフに見守られ、プリンにラベルを貼る作業に励む吉積一也さん(中央)と泊裕也さん(左) スコーンも販売。袋は利用者が折り紙を使って一つずつ手作りしている

 障害のあるわが子の将来を見越し、就労施設や作業所運営を自らが手掛ける親たちもいる。福岡県那珂川町の「すいーつ工房ManaMana」もその一つ。特別支援学校高等部1年の息子がいる溝口裕之さん(42)=福岡市=が株式会社を設立、5月にオープンした就労移行支援・就労継続支援B型事業所だ。溝口さんのもう一つの顔は観光地・大分県由布市湯布院町で先代から受け継いだ温泉宿の支配人。おもてなしの心や培った人脈を生かし「地域で障害者が自立できるよう、工賃を十分支払える事業所を実現したい」と意気込む。

 オレンジとクリーム色の明るい内装の店内。若者2人がプリンにラベルを貼る作業に励んでいた。接客や調理関係の一般就労を目指す吉積一也さん(19)は特別支援学校を卒業して2年目。施設内の工場で実際にスイーツづくりも手伝い「まずは工場長の右腕になりたい」。手先が器用という泊裕也さん(18)はこの日が初めて工賃をもらう給料日。「菓子を入れる小さな袋作りが好き」とはにかんだ。定員計20人のうち、現在は10代の計3人が就労などの訓練に励む。

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 もともと食品関係の会社で営業マンだった溝口さん。施設を手掛けたのは、ダウン症などがある長男真音(まなと)さん(16)が通う学校主催の就労施設の見学会で、目標工賃が「月額7千~8千円」と知ったのがきっかけだった。「息子がビールも飲めない金額じゃないかと…ショックだった」。たとえ障害の特性で就労が大変だったしても「もう少し生産性のある仕事場はできないのか」と考え始めた。

 大きな転機は4年前。九州の旅行雑誌の人気ランク1位になった湯布院の旅館「湯らり六妙(ろくみょう)」を経営していた父が他界し、会社を辞めて自ら支配人として帰ることになったのだ。また知人から「レシピもあり、機械があれば誰でも作るのは難しくない」とプリンの製造販売も勧められた。「それなら、障害者の就労に結びつけられられるのでは」。思いが定まっていった。

 息子の将来については漠然と「旅館で手伝いをさせればいいか」と考えていたこともあった。保育士の妻(41)から「それは違う」とたしなめられた。「ちゃんと居場所があって仲間もいて、自立させるのが親の役目じゃないの」-。

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 サラリーマン時代の先輩や知人に相談した。「考えが甘い。販路がないとそんな簡単に商売は成り立たない」。飲食業の社長からはそう厳しく指摘されたが、同社が全国展開するもつ鍋店のデザートとして納入すると約束してくれた。「障害がある人であろうとなかろうと、いいものを出してくれたら買いますよ」と。

 人づてに紹介され、工場長として有名ホテル店のパン職人も雇用。もつ鍋店には、冷凍したプリンに似た洋菓子「カタラーナ」を納めることになった。同社の役員らを迎えた試食会では「気泡が入っている」など数回、“ダメ出し”も受けた。甘みを調整するなど何回も作り直し、ようやくOKに。6月から納入を始め、1日約500食を出せるよう製造を続ける。

 店舗兼工場として場所を借りる際「障害者の事業所」を理由に敬遠されたことも。一方で、障害のある子どもがいる設計デザイナーらの協力を得ることができ「本当にいろんな方に支えられた」と振り返る。

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 施設では他にプリンやスコーンも製造し、店頭などで販売。利用者やスタッフには「大切な友人が遊びに来てくれたときと同じように応対し、お客さんを笑顔にしよう」と呼び掛けている。工賃は今、月額1万円だが目標は最低賃金(福岡県内は時給789円)並みに支払えるようになること。そして、障害者をただ法定雇用するだけではなく「雇用者側にも参考となる企業のビジネスモデル」になること。「障害のある人でも『戦力』になれると啓蒙(けいもう)していけたら」

 ものづくりにこだわり、販路も確保し、何より「おもてなしの心」で。一人の父親の挑戦は始まったばかりだ。

=2018/08/16付 西日本新聞朝刊=