アフガン支援、伊藤さんの遺志継ぐ ペシャワール会スタッフ殺害10年 大統領「復興の鍵」

西日本新聞

 アフガニスタンで復興支援に当たる福岡市の「ペシャワール会」スタッフ、伊藤和也さん=当時(31)=が現地で武装グループに殺害された事件から26日で10年を迎える。伊藤さんらの活動が礎となった取り組みは、同国の大統領も「復興の鍵」と認めるまでになった。治安は今も極度に悪く、日本人スタッフの活動に限界もあるが、住民に用水路建設のノウハウを伝えるなど支援の幅は広がりつつある。

 「彼を忘れないことはもちろん、危機管理の重要性を常に考えていく必要がある」。22日、ペシャワール会の事務局で開かれた伊藤さんをしのぶ会。約30人を前に、福元満治事務局長(70)はそう強調した。

 同会は2000年に起きた大干ばつを受け、03年に用水路建設を始めた。この年から参加した伊藤さんは作物の試験栽培などを主に担当。08年8月26日に武装グループに拉致、殺害された。

 現地では今もテロが頻発する。事件後に日本人スタッフの大半が帰国し、その後の渡航もままならない。現地で継続的に活動するのは中村哲・同会現地代表(71)だけで、作業現場以外には外出しない。

 そんな中、同会の活動は着実に実を結びつつある。これまでに建設、補修した用水路で潤う土地は福岡市の面積の約半分に当たる約1万6千ヘクタール。中村さんは2月、ガニ大統領から国家勲章を受けた際「探していた復興の鍵が、あなた方の仕事だ」と言われたという。

 「アフガン各地が干ばつに苦しむ中で支援を続けていくことが、何より伊藤さんの弔いになるはずだ」と、中村さんは話す。

 日本人スタッフ不在でも取り組みを根付かせていく試みも始めた。1月に国連食糧農業機関(FAO)と連携し、住民を対象にした訓練所を開設した。昨年4月からは年2回、アフガン人スタッフを日本に招いての研修を続けている。

 「アフガンを本来あるべき緑豊かな国に戻すことをお手伝いしたい」という伊藤さんの思いは、後進に共有されている。スタッフの浦田菖平さん(26)は「現地の独り立ちには時間がかかる。安全に十二分に気をつけ、住民と顔を突き合わせながらの取り組みを行っていきたい」と話す。

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■国際貢献、道徳授業で紹介

 伊藤和也さんの志は、さまざまな人たちに引き継がれている。

 学校教材の編集を行う静岡県出版文化会(静岡市)は2015年から、中学3年の道徳の副読本で伊藤さんを紹介している。報道で事件を知った中学生が伊藤さんの活動報告などを読み、「私にとっての幸せ」を考えるという内容だ。同会は「伊藤さんの生き方に触れ、命や国際貢献について考えてほしい」と話す。

 現地で伊藤さんと共に働いた元ペシャワール会スタッフの杉山大二朗さん(42)は福岡県内の日本語学校に教員として勤務。授業などで同会や伊藤さんの活動について話すと、アジア出身者を中心とした生徒たちは食い入るように聞くという。「自分のやるべきことを貫いた彼の生き方を語り継ぐことが私の使命です」

 伊藤さんの両親は08年、アフガンの農業や教育支援に役立てるための基金を設立した。これまでに三千数百万円が集まり、一部はイスラム神学校の建物建設などに充てた。10年で区切りを付ける考えだったが、全国から寄付はやまず、今後も続けるという。父の正之さん(70)は「10年の節目が和也を思い出し、知ってもらえる機会になればありがたい」と話している。

=2018/08/23付 西日本新聞朝刊=

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