庶民の台所「国際市場」に 金海市 産業団地の出稼ぎ外国人急増

西日本新聞

 韓国・釜山市に隣接するベッドタウンの慶尚南道金海市に、ベトナム語やタイ語が飛び交う市場がある。70年を超す歴史があり、地元住民の台所として栄えてきた「金海東上市場」。2000年ごろに郊外へ人口が流出して一時は衰退したものの、産業団地の造成に伴い増加した外国人労働者向けの商品を扱い始めて活気を取り戻した。地元商店主らも、グローバル時代の「国際市場」として再生しようと意気込んでいる。 (釜山・丹村智子)

 ココナツやドリアン、香草のパクチーが並ぶ市場に足を踏み入れると、韓国でおなじみのニンニクや朝鮮ニンジンではない「異国の香り」が漂っていた。ベトナム人店主がほほ笑む軒先の奥には、ハングルと異なる文字のラベル付きの缶詰や魚醤(ぎょしょう)、香辛料の袋が、棚いっぱいに並んでいた。

 「移民や留学生が増えたので、いい商売になると考えて3年前に店を始めたの」。食料品店の女性経営者ホアン・ティ・バック・ゴックさん(43)は、21年前にベトナムの首都・ハノイから研修生として来韓し、後に韓国人と結婚して定住した。商品は郵便で母国やタイから取り寄せるほか、野菜は同じようにベトナムから嫁いだ女性らが近くで栽培しているという。

 ここで34年間、青果店を続ける朴(パク)チャンエさん(65)は、5年前から全体の2割は東南アジアの食材を扱っており、外国人アルバイトも雇う。平日はベトナムとタイ、さらに週末はスリランカ、ミャンマー、カンボジア出身の店員が店先に立つ。朴さんは「外国人相手にうまくいくか心配だったけれど、アルバイトは真面目だし、客もおまけしてあげるとニコッと笑って感じがいいですよ」と話す。

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 韓国南部の玄関口、金海国際空港や釜山港に近い金海市は、2000年代に入り産業団地が次々に造成された。現在約7500社の中小企業が立地し、そこで働く労働者を含め、約1万8千人の外国人が3カ月以上の滞在者として登録されている。市の人口約55万人のうち、実に3・3%が外国人。釜山市の1・4%に比べ2倍以上の割合だ。韓国系外国人を除くと、ベトナム、インドネシア、スリランカなどの出身者が目立っている。

 産業団地の造成と時を同じくして、金海市では郊外での宅地開発と大型スーパーの進出も盛んになり、市中心部が空洞化した。市場関係者は「市場内の賃料が下がり、外国人店主にも入店しやすくなった」と話す。実際に外国人向けの店が目立ち始めたのは、市場の人出が減ってしばらくした2010年ごろからだという。

 当初の様子を、54年間市場で調理器具店を営む林鐘奎(イムジョンギュ)さん(78)は「正直なところ、貧しい国から人が来るのは歓迎していなかった。市場の景気が良ければ、外国人は受け入れていなかったのではないか」と振り返る。ただ徐々に常連客も増え、地域に外国人が溶け込むと、見方も変わった。「韓国人も1970年代は外国に出稼ぎに行っていた。僕らも昔は一緒だったんだ」

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 以前から市場を支えてきた商店主らの意識も変わり、2016年には「多文化が共存する市場」を商人会のスローガンに定めた。外国人店主も商人会の会員として受け入れ、市場のルールを決める会合や投票に参加を認めた。コミュニケーション不足によるごみ分類などのトラブルも減り、今や全140店舗中、1割が外国人経営の店だ。

 商人会の金哲熙(キムチョルヒ)代表(61)は「他の市場にはない多文化共存という特色ある市場になれば、韓国人客や観光客も増えるはず」と力を込める。アーケードや外国語案内を整備するよう行政に支援を求めていくほか、市場周辺に広がる外国料理店と一体となった再開発も視野に入れ、グローバル時代の「国際市場」を目指していく。

=2018/08/27付 西日本新聞朝刊=

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