野球好きが目指す場所 運動部次長 山本 泰明

西日本新聞

 「みんな、野球が好きだねえ」。プロ野球福岡ソフトバンクホークスの王貞治会長が2008年まで務めた監督時代によく口にした言葉だ。

 延長戦などで長引いた試合の後、選手や担当記者のぐったりした顔を見渡しながら「ふふふ」と楽しそうに笑うから、こちらもつい表情が緩んだ。負ければご機嫌斜めなのも常。一番の野球好きは王会長自身だったことを、誰もが知っていた。

 そんなことをふと思い出したのは、今夏、「災害レベル」とまで称された酷暑の下、甲子園球場でプレーする野球好きたちを見たからだ。

 かつてこの地を沸かせたスターと同じ場所で、同じように投げてみたいし、打ってみたい。冷房の効いた部屋でテレビ観戦しかしたことのない人には分からないかもしれない喜びが、節目の100回を迎えたこの夏も、グラウンドにあふれていた。

 北福岡代表として、春夏通じ初めて甲子園に出場した折尾愛真高の3年生、野元涼選手もその一人だ。今の時代には珍しく打撃用の手袋をせずにバットを持ち、チーム一の握力で長打を量産する。

 好きなスタイルは、動画サイトなどで繰り返し見た、大阪・PL学園高時代の清原和博選手。「甲子園で、自分もああいうふうに豪快に打てたら最高です」。残念ながら初戦で敗れたが、試合前日に聞いた言葉と、きらきらした目の輝きが忘れられない。

 何度も甲子園を経験した指導者は、選手以上に野球が好きかもしれない。

 春夏通算史上最多の68勝を挙げ、今大会後に退任した智弁和歌山高の高嶋仁監督は「負けて1週間もしたら、震えが出てくる。甲子園に行きたいって禁断症状で」と独特の表現で振り返った。西東京・日大三高の小倉全由監督は、準決勝で秋田・金足農高に敗れて泣きじゃくる選手たちに「暑くたって、甲子園が一番なんだ」と声を掛けた。

 決して「聖地」である必要はない。歴史を神格化するのではなく、選手の純粋な思いを受け止める場所であり続けることが大切だ。観客も含めた暑さ対策や投手の球数・連投をどう考えるかは今後の議論の対象だろう。それでも、野球好きが目指す場所は101回目の夏もその先も、変わらず甲子園であってほしい。

 かつて甲子園を沸かせた王会長は、毎年夏になると、こんなことも言っていた。「甲子園は野球の原点だからね」

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 ▼やまもと・やすあき 佐賀市出身。1996年入社。鳥栖支局、スポーツ本部運動部、東京支社運動部などを経て現職。

=2018/08/28付 西日本新聞朝刊=

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