「あなたは誰かの命を救うことができる」 映画に願う「自殺防止」 鹿児島出身・坂口さん 志願者救助テーマに

西日本新聞

 自殺者を減らそうと、自殺志願者の救助活動に取り組む人をテーマにした映画「曙光(しょこう)」が完成した。手掛けたのは、ドキュメンタリーを撮り続けてきた映画監督の坂口香津美(かつみ)さん(63)=鹿児島県南種子町出身、写真。自身も、身近で起きた自殺に人生を変えられた経験を持つ。夏休み明け前後に子どもの自殺が多発するのを気に掛け「死ぬのはもったいない。あなたは誰かの命を救うことだってできる」と呼び掛ける。

 映画は、主人公の文絵が、いじめを苦にして命を絶った娘の遺体と直面するところから始まる。苦しんだ末、文絵は自殺志願者の救助活動に乗り出し、保護した人たちと山間部で共同生活を送るようになる。そこで予期せぬ事件が-。

 「自殺は周囲の人を誰ひとり幸せにしない」と断言する坂口さん。強い思いの背景には、28年前の春に起きた出来事がある。

 その日、交際中の女性からの電話で自宅に駆け付けると、彼女の元恋人の男性が室内で首をつっていた。2人で遺体を抱えて下ろした。彼女と結婚の約束を交わした数時間後のことだった。そのまま彼女とは疎遠に。数年間は映像の仕事が手に付かなくなり、恋愛も避けて生きてきた。

 なぜ死んだんだ-。自殺した男性には、人生を狂わされた恨みをぶつけることしかできなかった。遺体の重さと、中ぶらりんの足が、記憶から消えなかった。

 2010年。ドキュメンタリー番組の取材で、自殺志願者を瀬戸際で助ける活動に取り組む和歌山県白浜町の牧師、藤藪庸一さんを訪ねた。岸壁近くの公衆電話に10円玉を置き、電話があれば24時間態勢で駆け付ける。家族も協力し、保護した人と寝食を共にしながら立ち直りを支援する。ひたすら手を差し伸べる姿に衝撃を受けた。

 同時に、あの男性に対してこれまでと違う感情を持てた。「個人的な恨みではなく、一つの命が失われたこと自体がもったいないと思えるようになった」。藤藪さんをモデルにした劇映画を作ることを決め、8年かけて完成させた。

 夏終盤のこの季節は、子どもの自殺が増える。公的機関の相談だけでなく、温かい居場所がもっと必要だと感じる。「自殺志願者はあなたのすぐ隣にいる。一方で、命を懸けて誰かの命を救おうとする人もいる。この映画を、自殺について考えるきっかけにしてほしい」

 映画は10月から東京を皮切りに九州など全国で公開の予定だ。

=2018/08/28付 西日本新聞朝刊=

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