元ホームレスが命の授業 体験談通じて自殺防止訴え 子どもたちの共感呼び、全国から公演依頼

西日本新聞

 苦しいだろうけど死んじゃだめだ-。過酷な路上生活を抜け出した元ホームレスたちが、体験談を通じて子どもの自殺を食い止めようと活動する「生笑(いきわら)一座」(北九州市)が発足5年を迎えた。これまでに全国の小中学校などで94回の公演を開き、延べ約2万人に届けてきたのは「助けてと言っていいんだよ」というメッセージだった。子どもの自殺が急増するとされる新学期、一座は呼び掛ける。「死にたいって誰にも言えなかったら、うちに逃げておいで」

 「僕もね、助けてって言えなくて。言っても相手にされないかもって不安で…」。福岡県糸島市の中学校体育館。元ホームレス男性の口からとつとつと語られる言葉に、子どもたちのまなざしが変わっていく。

 主宰するのは、生活困窮者の自立を支援してきた認定NPO法人「抱樸(ほうぼく)」。自殺と隣り合わせの路上生活を生き抜き、笑って過ごせるようになった人々の体験や言葉の中に、自殺を思いとどまらせるヒントがあると理事長の奥田知志さん(55)が呼び掛け、始まった。

 公演は5人のホームレス体験者と奥田さんとの対談形式を中心に行われる。母親との死別で生きる希望を失い、49歳で路上生活を始めた西原宣幸さん(69)は11年間に及んだ体験を話す。海水で体を洗い、缶回収で現金を得る日々。「車がぶつかってくれば、死ねるなぁと思ったこともある」

 下別府為治さん(74)も妻子が家を出て路上生活に。「自分なんか生きてても意味がない。誰にも知られずに死のう」と山中でナイフを首に当てたこともある。2人とも奥田さんたちとの出会いが転機になった。「自分のことのように心配して話を聞いてくれた。助けてと言えた日が助かった日だった」(下別府さん)

 体験者が実名で赤裸々に語る姿が共感を呼び、全国の学校から声が掛かる。公演後、寄せられる感想には切実なものも多い。家でも学校でも相談できず死にたいと思ったという女子生徒はこう書いていた。「周りの大人たちから、全てを一人で背負ってこそ『立派な大人』だと雰囲気で教えられていた。でも『助けて』と言っていいんですね」

 ほかにも「助けてという言葉は甘えていると母に言われていたけれど、素直な言葉なんだと気づいた」「6年生になって他学年を引っ張らなくてはとストレスだった。初めて家族に助けてと言えた」「私も助けてと言ってもらえるような人になりたい」という感想もあった。昨年度だけでも110人の感想文の中に死にたくなっても公演を思い出し、死を選ばない決心がつづられていた。

 「助けて」と素直に言えない子どもたちの多さに、奥田さんは「個人の自己責任論が強まっており、親にさえ迷惑を掛けられないという風潮が広がっている」と危惧する。

 生きていれば笑える日がきっと来る-。会の名前にはそんな思いが込められている。つらい日常を送る子に座員たちは語りかける。「生きる価値があるとかないとか言うけれど、命そのものに価値はあるんだよ」。公演依頼や相談は抱樸=093(653)0779。

=2018/08/31付 西日本新聞朝刊=

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