【産業医が診る働き方改革】<22>「職業がん」に注意を

西日本新聞

 金属部品の製造工場での出来事です。一連の作業に、金属部品を強アルカリ性の溶液に漬けて洗浄するという工程がありました。もちろん従業員は保護手袋をしていますが、有機溶剤用の手袋を使っていました。

 すぐに手袋の素材を確認したところ、酸やアルカリへの使用は推奨されていません。工場では有機溶剤を使う工程もあるので、おそらく手袋の素材をよく確認せず、そのままアルカリ洗浄作業にも使っていたのでしょう。私は、アルカリ洗浄作業には、耐アルカリ性がある素材の保護手袋を使用するよう指導しました。

 化学物質を取り扱う作業で適切な保護手袋を使うことは、皮膚障害を防ぐためだけではありません。2015年、福井市の化学工場で従業員のぼうこうがんの集団発症が発覚。その後の調査で、原因となる化学物質は手の皮膚から体内に吸収された可能性が判明しています。

 このように、仕事中に体内に侵入した化学物質が原因で発症するがんを「職業がん」と呼びます。これまでの職業がんの報告事例では、原因物質にさらされる経路は吸入によるものが大半でしたが、福井市のぼうこうがんのケースは皮膚を通して吸収されたと考えられています。これを受けて、労働者に健康障害を引き起こす可能性が高い「特定化学物質」の中でも、皮膚から吸収されることで健康に影響を及ぼす恐れが大きい物質を取り扱う場合、保護具の着用が義務づけられるなど規制が強化されました。

 手袋やマスクなどの保護具を適切に使うだけで、化学物質が体内へ侵入するリスクを下げることができます。しかし、実際の作業現場では、不適切な素材の保護具を使っていたり、「面倒くさい」「細かな作業がやりにくい」などの理由で着用を徹底していなかったりする問題が、今でもあるようです。

 仕事で化学物質を取り扱っている皆さん。作業時に保護手袋をきちんと使っていますか。扱っている化学物質に対して適切な素材のものでしょうか。もう一度、初心に帰って確認してみてはいかがでしょうか。

 (上野晋=産業医大教授)

=2018/08/27付 西日本新聞朝刊=

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